小さいスピーカーで低音は出るか

 最近では小口径ながらf0の低いスピーカーが多い。f0=30Hzなどのカタログスペックを見て、
「大型のスピーカーが無くても、十分迫力ある低音再生が出来るだろう。」「f0=40Hzの大型スピーカーより低音が出るだろう」と考えるのは早計だ。

 

 小さいスピーカーの振動板に耳を近づけていくと、離れた場所では聞こえなかった低音が聴こえてくる。これは耳が振動板に近づいたことで見かけの振動板が大きくなった為。

 見方を変えれば、横に逃げたり拡散してしまう空気の振動を逃げる前にキャッチした結果だ。

 これと似た現象をヘッドホン(オープンエア)で体験できる。装着すると低い音が良く聴こえ、20Hzから再生すると称する機種もある。しかしちょっと耳を遠ざけてしまうと、全くと言っていいほど低音が聴こえなくなってしまう。

 

 小さい口径のウーファでは低音が出にくく、遠くまで伝搬しないのは、低音の波長が長いことに関係がある。波長に対して振動板やバッフル板が小さいと、コーンが空気を押しても横や後ろに逃げてしまって耳まで届かないのだ。

 小さな振動板で遠くまで届く低音を出すのはきわめて困難である。無理に出そうとするなら、ひたすらコーンの振幅を増やすしかない。

※:音の波長は音速(m/s)を周波数で割ると出てくる。例えば100Hzの波長は、 340/100=3.4m もある。

 

 音響工学の本には、

“スピーカの音圧特性はf0以上でフラットになり低域再生限界はf0で決まる”

と書かれている。これは無限大バッフルに振動板を取り付た場合の話で、一般的なスピーカーシステムには当てはまらない。

 実際のスピーカーシステムは、無限大バッフルではなくスタンドや台に乗せて床や壁から離した形でセッティングされる。すると低音は四方八方に拡散してレベルが大幅に落ちる。そのため実際のスピーカーの低域再生限界が教科書通り f0で決まることはない

 

出典:ザ・サウンドボーイ特大号 1980年4月30日

 JBL LE-8Tを無限大バッフルにマウントした例(写真の場所は東京・新宿 サンスイ・オーディオセンター 1980年頃)。

 完全な無限大バッフルは、理論通りユニットのf0から再生できる。

 

出典:ダイヤトーンカタログ(1977年頃)

 ダイヤトーンは鳥取砂丘にスピーカーを埋めて特性を測定をしていたという。

 

 

 スピーカーが持つ能力の限界まで低音を出す為には、低音を拡散させず前に出す(放射効率を高める)工夫が必要だ。壁に埋め込んで無限大バッフルにするのが理想だが、現実には壁や床、コーナーに寄せて調整するしかない。

 ところが、一般家屋の室内でこれをやると定在波が生じて「こもった音」になってしまう[1]

 結局、口径が小さいスピーカで良好な低音再生ができるのは、ニアフィールドに限られる。しかしニアフィールドでいくら低い音を出しても「迫力」が感じられない。低音は耳だけでなく皮膚や体全体で感じる部分もあるからだ。

 結局、低音の魅力である「迫力」は、大口径の振動板が揺るがす空気圧の変化を、全身を使って感じることでしか得られない。

 

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