セイコーにスプリングドライブという技術がある。ゼンマイの力で発電しつつ回転数を制御するその仕組みは素晴らしいが合理性が見えない。こんなややこしいことをやってるヒマがあったら、素直に電気でステッピングモータを駆動した方がよくないか。
スプリングドライブの疑問
スプリングドライブは機械が「主」で精度をクオーツで補うもの、ではない。テンプやガンギ車といった脱進機を省略したらもはや機械式時計とはいえまい。そして動力源はなぜかゼンマイ。これは一体なにか?強いて表現すれば機械モドキの電気時計、というのが私の印象。
この機構はセイコーしか作れないらしい。確かに技術は大したものだが消費者に訴えるメリットが弱い。まるでマツダのロータリーエンジンのようだ。
精度はいいけど価値のないクオーツ式時計
機械式時計に比べクオーツ式の価値は低い。今や100均で買える時代。クオーツ式時計のモノとしての価値は、機械式時計に比べ低いのが現状。ところが、機械式時計のこのクオーツを組み合わせることで、両方の「いいとこ取り」した、新しい付加価値の高い商品が生まれる可能性がある。
テンプの周期をクオーツ制御する機械式ハイブリッド時計
機械が「主」で精度をクオーツで補うハイブリッドコンセプトの新商品を提案したい。
機械式の心臓部はテンプであり、その周期の正確さで精度が決まるという。ならばこのテンプの周期を高精度に制御すれば、機械式時計の精度を新たなステージに導くことができるのではないか。
たとえば下の図のように、テンプに永久磁石を埋め込んでおけばクオーツをリファレンスにセンサレス制御で周期を安定化できる。既存の機構に対しこの簡単な仕組みを追加するだけで温度や姿勢差による影響を排除でき、精度を簡単に1桁以上あげられる可能性がある。簡単に出来そうな仕組みなのに商品化されていない。
このしくみはあくまで機械が「主」で、クオーツはサポート。機械式時計の機構は変わらないから、蓄電池が電池切れのときや、電子回路が壊れたときは、フツーの機械式時計として機能する。電波受信回路を内蔵して長期の進み遅れを補正すれば電波時計並みの精度を得ることも可能なはずだ。
<技術詳細>
永久磁石が電磁石に接近したとき電磁石に電流を流すとテンプの速度が加速されてテンプの周期があがるることで時計が進み、通り過ぎたところで電流を流せばテンプ速度にブレーキをかけて時計を遅らせることができる。また、電磁石に流す電流の向きを変えれば磁極が反転するので吸引反発を作用させることでき、同じ磁石の位置で進み遅れを制御できる。電磁石の位置はどこでも良いが、テンプの速度が落ちる往復運動の終端近傍が速度制御しやすく電流効率がよい。
電流はいつも流す必要はなく調整が必要なときに限られる。電流を流さないとき電磁石はセンサとして機能する。磁石が電磁石の前を通り過ぎると電磁石に電流が流れるので、これをカウントして基準振動発生器が発する振動数と比較することで現在の周期や磁石位置を正確に知ることができる。またこれによって電流を流すタイミングを磁石の位置に合わせて正確にできる。磁石の数(ポール数)を増やすと1周期に得られるパルスが増えてより高精度な制御ができる。
パルス電流を出すタイミングや頻度は比較制御器で演算、決定される。制御器は良く知られたPIのほか、予測制御、適応制御などによって構成される。過去の誤差情報や制御定数を不揮発メモリに記憶しておくことで長周期の補正ができ、電池切れしてもはややかに復帰できる。
制御電流や回路の電源は蓄電器でまかなわれる。発電は自動巻き機構を利用したキネティックやソーラーパネルが利用される。蓄電器の代わりに電池を利用してもよい。ドッキングステーションを作って非接触給電してもよい。不揮発メモリに記憶された過去の誤差情報(運針データなど)はパソコンなど外部端末にダウンロードして表示することもできる。他のセンサを付ければ健康管理にも役立つ。データの転送はUSB端子を付けるか、無線通信してもよい。
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