YouTuberの悩みの一つに外部マイクのホワイトノイズがある。この原因を説明し、ノイズを少なくできる動画撮影のコツをご紹介する。
ホワイトノイズの要因
カメラにマイクを接続したときのノイズは、カメラに内臓されているマイクアンプと、プラグインパワーの電源品質、マイクの自己雑音の3つで決まる。
マイクに乗るノイズ = アンプのノイズ + マイクの電源ノイズ + マイクの自己雑音 + 誘導ノイズ
カメラ側で関係するのがマイクアンプと、プラグインパワーの電源品質。カメラによって結果が微妙に違うのはここの設計が違うため。
カメラ側マイク端子の限界
ほとんどがプラグインパワーの不平衡伝送。つまりミニプラグをブスっと挿す形のもの。しかもビット数が足りない。ハイエンドのGH5s,DC-S1RでもLPCM 16bit。音声素材は24bitで録音しないと加工で音が劣化してしまう。カメラのMIC端子はオマケと考えたい。
GH5s,S1RにはマイクロホンアダプターDMW-XLR1が用意されていて本格録音のニーズに対処するが、ホットシュー取付のため安定しない。カメラの下に付けて使える商品DR-60Dがありこちらをお勧めしたい。
外部マイクの選び方
(1)口径
マイクの性能は口径に比例する。口径が大きいほど感度が良く、ノイズが少なく、細かい音をよく拾う。質の良い録音をしようと思ったら、できるだけ口径の大きいものを選ぶことが重要。
(2)感度
入力設定でブーストすると、大幅にノイズが増える。マイクの感度が高いと音声を大きく録音できるから、その分アンプの増幅ゲイン(録音レベル)を落とすことができてアンプのノイズを小さくできる。
そのためには、マイク側にある程度の感度が必要。マイクの感度は ○○dB(0dB=1V/1Pa,1kHz、以後略)などと書かれている。この○○dBの数値が -30dB台が目安になる。-40dB台は感度が低い。
(3)自己雑音
基本的に、マイクの口径(ユニットサイズ)が大きいものほどマイク自身の自己雑音が少ない[1]。S/Nは口径で決まっていて、感度が高くても口径が小さいマイクは雑音が多い。
(4)誘導ノイズ
コンセントの電源に起因する「ブーン」という低周波のノイズ。ケーブルを延長したり、マイクを人体を近づけたり、手で触れたりするとこれが目立つことがある。
ケーブルはXLR接続(バランス伝送)が望ましい。カメラのマイク端子でよく使われるプラグインパワー(不平衡伝送)ではこのノイズが乗りやすい。
ビデオ用外部マイクの限界
これらのほとんどがプラグインパワーのミニプラグ(電池式含む)。アンバランス伝送なのでケーブルからの誘導ノイズが避けられない。これはあくまで簡易的なものと割り切る。
マイクの候補
オーディオテクニカ AT2035 ★おすすめ★
単一指向性、感度-33dB。ダイヤフラムが大きいだけあって性能・音質は小型のマイクカプセルとは比べ物にならない。細かい音までしっかり記録される。
写真のマイクアームはクラッシックプロ。中華製の激安商品に注意したい。ナレーションを録音する場合はポップガード か、ウインドスクリーンを付ける。
RODE VideoMicro
YouTuberの間で人気の単一指向性モノラルマイク。感度は -33dBとこのクラスで最も高い。本機のデータシート[2]見ると性能優秀。
オーディオテクニカ AT9940
感度 -36dB、大口径ユニット搭載した高音質&高感度ステレオマイク。音楽録音に適している。プラグインパワー方式ではこのくらいモノが上限。
RODE SmartLav+ +変換アダプターSC3
感度 -35dBの高感度ラべリアマイク。衣類に付けて使う。カメラから離れた位置で自撮りする用途に適している。スマートフォン用(TRRSプラグ)なので変換アダプターSC3が必要。音質は及第点でノイズもそれなり。胸のところで録る音はこもった音なので、イコライジング調整が必要。
中華製マイク Ashuneru XO-V001 改造品
6mmのマイクカプセルを2個内蔵して感度-25dBというとんでもないマイクだが、小口径なのでノイズもそれなりに多い。そのままだと誘導ノイズが乗るので、ケースにアースを取る改造が必要。改造の詳細は関連記事8を参照。
オーディオテクニカ AT4040
単一指向性、感度-32dB。DCバイアス型。低ノイズを求めるとDCバイアス型に行きつく。このタイプはデリケートで扱いに気を遣う。アマチュアレベルではこのあたりがハイエンド。
オーディオテクニカ AT5040
参考に挙げておく。単一指向性、感度-25dB。DCバイアス型。圧倒的高性能。高感度低ノイズの究極はこれになる。
指向性による音の違い
単一指向性マイクは裏に穴が開いていて、表から来た音と相殺する仕組み[4]。一般によく見る棒状のエンドアドレス型マイクは穴の作りによって周波数特性に違いが生まれ、これが製品によって音が違う要因になっている。
エンドアドレス型の単一指向性マイクに「音源に忠実」を求めるのは無理。音源に忠実な単一指向性マイクを求めるなら、後述するマイクの周囲に障害物がないサイドアドレスタイプを使う必要がある。指向性マイクの「低音が弱い」とか、「声が引っ込む」とかいう問題は、イコライジングである程度改善できる。
無指向性のマイクは周波数特性がフラット。そのため計測用マイクはすべて無指向性になっている。
無響室で無指向性マイクを音源に近づけて録ると、音源に最も忠実な録音ができる。しかし残響のある部屋では周囲の音を拾って耳で聞いたのと違う感じに録れることがあるから、指向性マイクが選ばれることがある。
低ノイズで録音する工夫
自撮りではマイクに1cmでも近く!
多くのYouTuberがカメラにマイクを乗せ、それに向かってしゃべっている。マイクから離れてしゃべった音にホワイトノイズが目立つのは当たり前。低ノイズでトークを録ろうと思ったら、マイクを口に近づける必要がある[7]。
カメラから離れて録る場合は、上記のラべリアマイクを服に付けるか、マイクアームを使ってカメラの視野に入らない位置(頭の上など)から音を拾うことを検討してほしい。
PCMレコーダーを使う
TASCAMのDRシリーズやZOOMのHシリーズなどのPCMレコーダで音を別録りし、編集ソフトで映像と同期させる。内臓マイクは上記した誘導ノイズの問題と無縁であり、手軽に高品質な録音ができる。
映像と音の同期は、手を叩くなど何らかのタイミング音をカメラ内臓マイクと同時録音すればよい。映画撮影で使うカチンコがあると便利。
写真はDR-05(2019最新機種はDR-05X)。無指向性マイクのマウントに問題があって音にクセがある。YouTube動画制作では単一指向性マイクが乗るDR-07XやZOOM H1nの方が良いとみられる。実売1.4万円前後だから、これ以上高いプラグインパワーのマイクを買うくらいならコレにした方がいいだろう。
DR-05には外部マイク端子がありプラグインパワーのON/OFFができる。試しに低感度のラべリアマイク(AT805F , -46dB)を外付けしてもホワイトノイズが増えないことから、ノイズは内臓マイクアンプで決まっている。
DR-05のLine OutをカメラのMIC端子(ライン入力)に繋ぐと映像と同期できるが、上述したようにプラグインパワーのMIC端子に繋ぐと故障の原因になるので注意したい。これが出来るのはMIC端子をライン入力に出来るカメラに限られる。
PCMレコーダーにもグレードがある。ホワイトノイズを追求するには、EIN(入力換算雑音) -120dBu以下のZOOM H4nProやF4などをお勧めする[7]。
音声のイコライジング耐性
マイクで録った音は必要に応じてイコライジングする必要がある。この場合、音声を24bit以上で撮っておきたい。上述したPCMレコーダーは96kHz 24bitで記録可能だから後加工が自由自在。音にこだわるなら最初からこれらの機器を使うのが正解。
オーディオ編集ソフトaudacity[5]のイコライジング画面。自由自在な加工は、素材に十分な情報があってこそ。
最後に
良い音で撮るための秘訣は、
①口径の大きいマイクを使う
②マイクに口を近づける
音にこだわるならPCMレコーダーで別撮りが正解。
<参考購入先>
VideoMicro
ポップガード マイク保護のためにぜひ欲しいアイテム
クラッシックプロのマイクアーム 怪しい激安中華製品に注意。これがボトムです
オーディオテクニカ AT9940
RODE SmartLav+ +変換アダプターSC2
TASCAMのDRシリーズ
DR-05X 無指向性ステレオマイク
DR-07X 単一指向性ステレオマイク(角度可変)
DR-40X 単一指向性ステレオマイク(角度可変)、XLR端子、4トラック、プラグインパワーなし
DR-22WL DR-07XのWi-Fi付き(但し角度固定)
DR-44WL DR-40XのWi-Fi付き
DR-100MKIII 単一/無指向性ステレオマイク、XLR端子、ハイエンド
ZOOMレコーダーの比較は参考文献6を参照。
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<参考文献>
1.音とそのセンサについて 小野測器
2.VideoMicroデータシート
4.マイクロホンの指向特性 (オーディオテクニカ、リンク切れ)
5.audacity
6.ZOOMレコーダー比較表(サウンドハウスHP、リンク切れ)
RODE
オーディオテクニカ
TASCAM