最近では小口径でありながらf0の低いスピーカーが多い。f0とは低音の再生限界(周波数)。この数字を見て
「大型のスピーカーが無くても、十分な低音が出る」と考えるのは早計だ。
近くだけで聞ける低音
小さいスピーカーの振動板に耳を近づけていくと、離れた場所では聞こえなかった低音が聴こえてくる。これは耳が振動板に近づいたことで見かけの振動板が大きくなった為。
見方を変えれば、横に逃げたり拡散してしまう空気の振動を逃げる前にキャッチした結果。
これと似た現象をオープンエアタイプのヘッドホンで体験できる。装着すると低い音が良く聞こえる。20Hzから再生すると称する機種もある。しかしちょっと耳を遠ざけてしまうと、全くと言っていいほど低音が聞こえない。
(オープンエアの動作原理はスピーカーと同じ[4])
なぜ遠くまで届かないのか
小さい口径のウーファでは低音が出にくく、遠くまで届きにくいのは、低音の波長が長い※ことに関係がある。コーンが空気を押しても横や後ろに逃げてしまう。これによってせっかく出た低音が全周に拡散してしまい、距離によって急速に減衰する。
中高域ではこういうことが起きない。横に逃げず前に出てくるから、距離によってあまり減衰しない。これによって、近くでは低音が聞こえるが、離れると中高域しか聞こえてこないという現象が起きる。
スピーカーの後ろや横では逆の音を体験できる。中高音が減って低音だけ良く聞こえるはずだ。
※:音の波長は音速(m/s)を周波数で割ると出てくる。例えば100Hzの波長は、340/100=3.4m もある。
低域再生限界はf0で決まる?
音響工学の本には、
“スピーカの音圧特性はf0以上でフラットになり低域再生限界はf0で決まる”
と書かれている。これは振動板を無限大バッフルに取り付けて、かつ低音から高音まですべて半球面状に拡散するという、現実にはほとんど無い仮定の話であることに注意したい。
現実には、低音は四方八方に拡散し、中高音は前に進むので、先に書いた通り、距離が離れるほど低音は減衰し、中高音だけよく聞こえる形になる[3]。
JBL LE-8Tを大型の平面バッフルにマウントした例(写真の場所は東京・新宿 サンスイ・オーディオセンター 1980年頃)。
完全な無限大バッフルは、理論通りユニットのf0から再生できる。
ダイヤトーンは鳥取砂丘にスピーカーを埋めて無限大バッフルを模擬し、特性を測っていた。
小さいスピーカーの低音を増強する方法
スピーカーが持つ能力の限界まで低音を出す為には、低音を拡散させず前に出す(放射効率を高める)工夫が必要だ。壁に埋め込んで無限大バッフルにするのが理想だが、現実には壁や床、コーナーに寄せて調整するしかない。
ところが、一般家屋の室内でこれをやると定在波が増幅されて「こもった音」になる[1]。
結論
結局、口径が小さいスピーカで良好な低音再生ができるのは、ニアフィールドに限られる。しかしニアフィールドでいくら低い音を出しても「迫力」が感じられない。低音は耳だけでなく皮膚や体全体で感じる音もあるため。
結局、低音の魅力である「迫力」は、大口径の振動板が揺るがす気圧の変化を、全身を使って感じることでしか得られない[2]。
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