ニンニクの香りはどうやったら引き出せるのか~ペペロンチーノの本質

ペペロンチーノはニンニクの香りで決まるが、ここが難しい。ネットのレシピを試してもうまくいかないと感じてる方が多いと思う。そこで、どうやったらニンニクの香りを引き出せるか、実験してみた。

加熱中のニンニクオイルの温度を測っている様子

 

ニンニクの香りがオイルに移らない

 ペペロンチーノのレシピを見ると、大抵こう書いてある。

「芯を取ったニンニクを刻み、オリーブオールでじっくり弱火で加熱する。茶色くなってきたら出来上がり」

これをやった人のほとんどが失敗するはず。工程は合ってるが、大事なことが書いてない。

 下の写真は、じっくり弱火で加熱して作ったニンニクオイル。いろんなタイミングで一部取り出して、香りと味を比較してみる。どれもこれも、香りなく味気ない。なぜこうなるのか?

今までのレシピで作ったニンニクオイル

 

なぜ失敗するのか

 ニンニクを切ったり加熱すると、いろんな香り成分が出る[1]が、その多くは高温で分解消失してしまう。刻んだニンニクを加熱するといい香りが立つが、これらはすべて空気中に揮散しオイルに残らない。

 オイルにはニンニクから出た脂溶性の香り成分が出るが、ニンニクがキツネ色になるくらいオイルの温度があがると分解消失してしまう。後に残るのは、味も香りもない油とニンニクカスのみ。これが、多くの人がやる失敗パターンだと思う。

 こうなる原因は温度のあげすぎ。「じっくり弱火で」ではなく数値で管理しなければならない。この最高温度は、私の実験では90℃までであり100℃を超えてはならない。

 ニンニクの香りは空気や温度によっていろんな物質に分解されていくため、温度、時間によって結果が違う。例えば、常温でもオイルにニンニクを入れて長時間放置すると、生っぽいニンニクの香りが移る。

 

香りを最大限引き出すガーリックオイルの作り方

 どうやって90℃以下の温度を維持するか。その方法のいくつかをご紹介する。

ニンニクの切り方

 カットの仕方で香りの出方が違う。細かくカットするほど、香りが良く出る。究極は「すりおろし」だが、ここはニンニクつぶしを使うのが簡単。少ない量で最大限の香りを引き出せる。

ニンニク潰しを使う様子

 

1.放置法★★超おすすめ★★

 オリーブオイルに刻んだニンニクを入れてラップをかけ、冷蔵庫で一晩放置する。常温放置すると青くなってしまう。
 これを調理に使うと、最も香り高いパスタが出来る。加熱しすぎないこと。

にんにく潰しでガーリックオイルを準備している様子

 

2.電子レンジ法★おすすめ★

 時間が無いときのお勧め。オイルとニンニクを入れ、ラップをして100Wの微弱加熱で5分~8分。200Wだと激しく沸騰してしまうので加熱を持続できない。この方法はきっちり100℃まで温度が上るため、湯煎法とは違った味と香りになる。

レンジでオリーブオイルとニンニクを加熱している様子

レンジで加熱した様子。オイルが濁ったところが目安

3.湯煎法

 コップに刻んだニンニクとオイルを入れ、ラップをかけて湯煎する。空気中に蒸散する香りを最大限とどめることが可能。GEO-28Sのような水深の浅い鍋を使うと、麺を茹でるとき一緒に湯煎できる。

 5分でオイルに香りが付き始め、味と香りが変化していく。好みにもよるが、8~10分が目安。この方法は100℃まで温度があがらず(最大でも92℃くらい)、理想的な加熱をキープできる。

 

湯煎で香りを出しているニンニク

 

4.水入れフライパン法

 フライパンにオイルとニンニクを入れ、水30ccを入れ中火で加熱する。この水は、温度が上がりすぎるのを防ぐ温度リミッターとして働く。つまり、100℃になると水が蒸発するためそれ以上温度が上がらない。

 60℃を超えると泡が出始め、温度上昇とともに泡が増える。フライパンを傾けて水深を確保し、弱火にして加熱を続ける。

加熱中のニンニクオイルの温度を測っている様子

 5分くらいで味と香りが付き始め、8分くらいでだいたい完成する。その後加熱を続けると、味と香りが少しずつ変化していく(刺激臭が弱まり、だんだんまろやかになる)

 8分経つ前に水が無くなる場合は火力が強すぎる。火力を弱められない場合は、水を増やしてほしい。

 完成したガーリックオイル。こいつは旨い、これだけでいける。左はチューブのニンニクで同じように作ったもの。香り、味共に良くない。さすがにこれは使えない。

完成したニンニクオイル

 この方法は油に触れず水に入ってしまうニンニクが出たり、部分的に100℃を超える場所ができるため香りのロスが大きい欠点がある。

 

5.お湯出し法

 麺を茹でる最後の1分で、余分なお湯を捨て、刻んだニンニクを入れてて一緒に煮る。つまり水に香りを出して麺に移す。ニンニクの香りが付いた麺が簡単にできる。

 

ポイント

 加熱調理では80℃~90℃で8~10分加熱。まずはこれを基準としたい。オイルはサラダオイルでよい。オリーブオイルを使っても、味や香りにほとんど寄与しない。

 ガーリックオイルの香りは、プライパンで加熱したときに出る、あの「いい香り」とは違う。これは市販のガーリックオイルで確認できる。何をどうやっても、プライパンで加熱したときの香りはすべて空気中に揮散しオイルに残らない。

 

ニンニクは安いもので十分

 ニンニクは国産ニンニク、中国産などがある。産地によって香りが違うとされるが、加熱したら産地による微妙な違いなど関係ない。スーパーに売っている安いもので十分。少々の香りの違いは量で補える。

 苦みがあるとか言ってニンニクの芽の除去を勧める人もいるが、試したところ結果に変わりない。こういう面倒な作業は、やらんでいい。

 

 

香りを直接麺に移せないか

 まずニンニクの香りをオイルに移し、それを麺に絡める。理屈がわかると、それが「迂遠」なことに思えてくる。「オイルを経由せず直接麺に移せないか」「その方が、香りの損失が少ないはず」と次に思い立つ。

 このやり方は簡単で、ニンニクをオイルで加熱し、いい香りが立ってきた時点で火を止め、余熱であたためる。あとは茹で上がった麺を入れて絡めるだけ。

 ガーリックオイルを作る方法を「間接法」、直接麺に香りを移す方法を「直接法」と称して以下調理方法を紹介する。

 


 

ペペロンチーノを作る

ガーリックオイルを作る(間接法)

 1人前の材料は、パスタ100g、塩2g、サラダオイル大さじ2、ニンニク2~3かけ、唐辛子

 最初に、上記どれかの方法でガーリックオイルを作る。

塩は適当はダメ。最初はきっちり計量して感覚をつかんでほしい。コンソメを加えたり、パスタをゆでるとき塩を加えた場合は、その分の塩分を計算に入れないと塩辛くなってしまう。

塩を計量している様子

 

 鷹の爪は最初から一緒に入れてOK。ガーリックオイルさえできれば勝ったも同然。今回は鷹の爪を一味で代用。

一味唐辛子を入れる様子

 パスタがゆであがる1分前に、出来上がったガーリックオイルに茹で汁50cc、塩、小さじ1/4の片栗粉を加え、加熱しながら良く混ぜる。世間で「乳化」が重要とされるが、必要ない。

 1分後、麺を入れ、加熱しながらトングで激しく回転させてソースを絡める。

乳化させている様子

 完成したペペロンチーノ。

完成したペペロンチーノ

 

麺に直接香りを移す(直接法)

 ガーリックオイルを作らない方法。

 1人前の材料は、パスタ100g、塩2g、サラダオイル大さじ2、ニンニク2~3かけ、唐辛子(上記と同じ)

 

1.最初に麺を茹でる

2.茹で上がる少し前に、フライパンにオリーブオイルとニンニク、唐辛子を入れて弱火で加熱する。

3.ニンニクから泡が出ていい香りが立った時点で、ゆであがった麺を入れ、絡める。

4.最後に塩などの調味料を入れて完成。

 

 この方法では麺と一緒にニンニクを加熱することで、今まで空気中に揮散させて(捨てて)いたニンニクの香りを麺に付けることができる。

 

味付けのオプション

フライドガーリックを加える
・エキストラバージンを小さじ1(オイルの香りを強化)
・味の素、醤油(隠し味)、コンソメ小さじ1など(まずは味の素から試してほしい)
・パセリ粉末ふりかける(色彩を添える)

コンソメを入れる場合は塩を減らす。

ガーリックオイルさえできれば勝ったも同然。あとは好きにアレンジしてよい。ベーコンを入れるとか、野菜を追加するとか、いろいろ発展できるが、ゴチャゴチャ入れすぎるとせっかくの香りがマスクされてしまう。ここはシンプルに、ガーリックオイルの香りを味わってほしい。

 フライドガーリックはニンニク本来の味と香りの補強に役立つ。

フライドガーリック

 

 

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<参考文献>
1.ニンニクを科学する