エアコン室外機を木造のベランダや屋根に設置すると振動や音が問題になることがある。低い音が睡眠の妨げになることも。室外機用の防振ゴムを敷いてもほとんど効果がない。対策するにはどうしたらよいのか。この問題を検討して成果を得たのでご紹介する。
防振の理屈
質量と床の間にバネを挟むと、特定の周波数で振動するようになる。これを固有振動数といい、その周波数を「共振点」という。
共振点より低い周波数は振動が伝わり、高い周波数は伝りにくい(共振点の1.4倍以上が防振領域[1])。クルマのサスペンションも、建物の免震ゴムも、同じ理屈で作られている。
共振点では振幅が増えるが、減衰(ダンパー)を入れることで小さくできる。ゴムはダンパーとバネの両方の性質を兼ね備えた材料のため、防振材料としてよく使われる。
市販の防振ゴムの問題点
「防振対策は、防振ゴムを買ってきて敷けばおしまい」そんな考えの人が多いようだが、そう簡単にはいかない。
それは、エアコン室外機の問題は低周波が多いため。低周波の防振をするためには、共振点を低くできるゴム、つまりバネ定数の低い(できるだけ柔らかいゴム)が必要になる。
しかし柔らかすぎるとゴムが重さに耐えられない。すると必然的に、重さに耐える硬さにせざるを得ない。これがゴムを使った防振の限界を決めている。
エアコン用防振ゴムの設計
我が家のベランダにはエアコン室外機(冷房4kWタイプ)が設置されている。下のグラフはそれを運転した時、屋内に響くエアコン室外機の騒音。ピーク周波数は32Hz。インバーター式の為、周波数が変わるが、おおむね32~39Hzで運転したときの音が大きい。おそらくベランダの床板と共振しているのだろう。これが不快な低周波の響きの正体。
32Hzの振動を抑えるためにはどうしたらよいのか。室外機を20kgとすると、32Hzの振動を1/10にするためには、固有振動数を1/3以下、つまり防振ゴムを敷いたときの、ゴムと室外機の質量で決まる固有振動数を、10Hz以下にしなければならない[1]。
ここで重要になるのが、防振ゴムのバネ定数。
固有振動数(Hz)は f=1/2π√(k/m)で求められる。この式からゴムのバネ定数kを逆算すると、80kN/m=80N/mm となる。つまりバネ定数が80N/mm以下のゴムを敷けばよいことになる。
但しこれは計算上の話。実際には動的ばね定数、バネ非線形性、温度による硬さの変化などを考慮し、2倍くらい余裕を見ておく必要がある。つまり実際には、40N/mm程度のゴムが必要。
これを室外機の両足に2カ所ずつ、4か所に分散させた場合、合計でこの値にならないといけないから、1個のばね定数は11N/mmとなる。
ところがこれで終わりではない。
室外機の重さは右足側(コンプレッサー側)が重くなっていて、両足にかかる重さの比率は 1:2 程度。つまり、同じゴムを使う場合は、右側に2倍の数が必要だから、左足に2個、右足に4個、合計6個敷くことになる。するとゴム1個あたりのバネ定数は、6.6N/mm以下が要求される(室外機の20kgの場合)。
室外機の重さから、実際に室外機を載せたときのゴムのたわみが計算できる。ゴムを6個使った場合、1個当たり3.3キロ(33N)だから、たわみは33/6.6=5mm。つまりどんなゴムを何個使うにせよ、室外機を載せたとき5mm以上たわむ形にしないと効果が無い。
ちなみに室外機の重さが変わっても、たわみが5mm以上になるゴムを選べば効果は変わらない。5mmの目安は、すべてのエアコンの振動対策に共通だ。
室外機の重さを測っているところ。この製品は、左足10kg、右足25kg。左右の足の下に同じゴムを同じ数だけ敷くと、右のゴムに負担がかかり、室外機が右側に傾斜する。
エアコン用防振ゴムの選定
室外機用防振ゴムと称する商品のほとんどがペラペラの商品。5mm以上たわませて使わないといけないのに、それより薄いものがほとんど。そんなゴムを敷いても効果がないのは当然。
ゴムのたわみは厚みの30%くらいが限界なので、たわみ5mmの場合は少なくとも17mm以上の厚みが必要。長期的な耐久性を考慮すると厚さ30mmは欲しい。厚みのあるゴムというとゴムブロックが候補になるが、硬さが不明なものは使えない。
エアコン室外機に設置された専用の防振ゴムを引き出してみたところ。厚みは10mm。面積が広すぎて室外機を載せても1mmもたわまない。このようなゴムは床とのガタツキやビビリを防ぐ効果しかない。
このような薄いゴムでも板を挟んで積層するとバネ定数が下がって防振に役立つことがある。
もう少しマシな防振材料はないものか。そこで見つけたのが、次のもの。
台所用の金属(ステンレス)たわし
金属たわしはゴムと同じようにダンパーとバネの両方の性質を兼ね備えている。しかもゴムと違って性能が温度や風雨、紫外線に影響されない。屋外に使う防振材料として理想的なもの。
防振用に用意したいろいろなステンレスたわし。変形の大きな材料なのでたわみからバネ定数を求めるのは難しい。
50gのたわし2個に室外機の右足を載せたときの様子(1個あたり12.5kgの荷重)。
潰れ切っている。5mm以上たわんでも潰れ切るとバネ定数が高くなり防振効果が十分得られない。ステンレスたわしは潰れ切らないで使える軽いものに有効な対策といえる。
硬度40のラブロックもしくはクラパッド
ラブロック[3]とクラパッド[2]はほとんど同じ商品。入手できる方で良い。硬度40のものを30mm角に切り、スペーサーを挟んで2段重ねで使う。6個使った場合の1個あたりの面圧は0.06N/mm2。耐荷重(0.4N/mm2)[2]に対し余裕があるので、1つの足に2個ずつ、合計4個で使うことにした。
スペーサー(0.5tアルミ板)を挟んで接着。屋外では紫外線で劣化するのでアルミホイルを巻いておく。
建物の免震ゴムはこれを積み重ねたミルクレープのような多層構造になっている。
室外機を載せたところ。自由長からのたわみ量は左足4.9mm、右足6.9mm(実測)であり、ほぼ目標(5mm)を満足する。サイコロ状のため少し不安定になるが、このあたりがゴムの限界。
安定性に関しては、スペーサーをゴムに個別に入れるのではなく、1枚板にして4ヵ所共通にすると改善する。
床とゴムの間に挟んでいる板は荷重を分散させるための陶器質のタイル。塩ビシート防水の下地にはアスファルトがあって、荷重を分散させないと凹んでしまう。
グラフは対策後の騒音。対策前(図1)に対して32Hzのピークが10dB以上、下がっている。ここまで下がれば上出来。
参考:二重防振にする
より大きな効果を望む場合はコンクリートの側溝ふたを挟んで二重防振にする。中間に質量を挟むことにより高い効果が得られる。バネが直列に入ることで、バネ定数が半分になる。重さが増すことで固有振動数も下がる。うまくチューニングすれば動吸振器としても作用する※。
※:側溝ふたとバネで決まる固有振動数をちょうど問題の周波数に一致させると、ドブ板が室外機の振動を打ち消すように振動して床に振動が伝わらなくなる。この防振機構は高層ビルの横揺れ防止に使われている。調整には振動センサなどの計測器が必要なのでアマチュアには難しい。
写真の側溝ふたは実測20kg。重さがあって薄く屋外で劣化しない。エアコンの二重防振に理想的な資材だ。
<参考購入先>
ラブロック 硬度40のものを使ってください
ステンレスたわし 50g以上の大型のものを使ってください
防振ゴム 厚さ12mmのジェルパッドを2~3枚重ねたものも使えそうです
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<参考文献>
1.防振ゴムの原理と振動伝達率
2.クラパッド
3.ラブロック
ご注意:2019年1月現在、金属タワシを防振に使った事例が存在しないことを確認しています。無断商用利用はご遠慮ください。