削りすぎが原因ではない~のぞみ台車亀裂問題を分析する

「原因は鋼材の削り過ぎ」という話で図が公開されている[1]が本当だろうか。「あんな尖がったところへ削らないで平らなものを設置するのは無理」「別に原因があるのでは?」そんな疑念を抱く。この問題の要因分析をして意外なことを見つけたのでご紹介したい。

 

フォルトツリー解析をしてみる

 こういう複雑な問題はフォルトツリー解析(FTA)をして要因を洗い出す。一般公開されている情報をもとに、私が作ってみたのが次の図。

のぞみ台車亀裂問題のFTA
 この図は〇のところに数字を入れると完成する。

 AND条件は、どれか一つでも入力条件を満たさなければそこから上には行かない。事故の多くは、このようにいくつかの条件が重なって起こる。

 

本当の原因は公表されない

 FTAにはすべての要因が盛り込まれるが、これがそのまま元受(JR)や、マスコミに公表されることはない。普通は、報告する人に都合の悪いことや、上位(元受)の批判につながる部分は削除されて流される。

 今回でいくと、JRには一番左端の「製造の問題」を起点とするルートだけが報告されているようだ。マスコミに対しては、素人にわかりやすい説明(赤枠部分)が公表されている。

 

 

溶接止端部から疲労破壊した

 亀裂が入った台車の写真が公開されている。それはまるで絵に描いたような疲労破壊。

 公表によると、軸バネ座の溶接部から亀裂が生じたという。疲労破壊は溶接止端部(溶接ビードの境界部)が起点になりやすいことが知られている[3]。ここは最も疲労強度の低い場所になる。

 側バリの底面は大きな繰返し応力が働く場所。そこに溶接止端部を作ったら、もう「そこからひび割れてください」と指示したようなもの。

 

不十分な側バリの強度

 側バリの断面にリブが2本見える[2]。よく見ると、薄い板を片側すみ肉溶接しただけ。側バリ本体も、リブも、見た目にだいぶ薄く見える。板厚が足りないのではないか。

 溶接は「両側すみ肉」でないと一体にしたとはいえない。片側すみ肉溶接したリブは、あまり有効でない補強に見える。

 

結論~側バリの設計不良が原因か

 FTAから、問題は次の3点に集約される。

1.軸バネ座の座面が平坦にならない作り。
2.繰り返し応力の大きい場所に溶接止端部を作っている(破壊起点になりやすい)。
3.側バリの強度不足(そもそも板厚が足りない)。

 すべて設計が原因。しかし設計を大幅に見直すのは難しい。何かを変えると、それがまた新たなリスクを生む為。

 結局この対策は、今後は検査を強化し、亀裂が酷いものについてのみ、修理または交換してく。原因を削ったせいにしたので、削らすにバネ座を取り付ける方法を検討する-そんなオチが予想される。

 

<関連商品>
3.鋼構造物の疲労設計指針 日本鋼構造協会 疲労破壊を避けるための設計指針をまとめた本。バイブル

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<参考文献>
1.東洋経済 「のぞみ」台車亀裂、2つの原因は”人災”だった 2018年03月05日
2.『のぞみ』台車亀裂の調査経過を公表…台車枠「側バリ」の溶接箇所が問題と指摘