ソニーICF-6800とナショナルPROCEED~BCLラジオの魅力

短波 1979年2月号のBCLラジオ(PROCEED)広告

出典:短波 1979年2月

 1970年代の後半、BCLブームがあった。当時私は小学生だった。友人がラジオを持ち始め、私も親に買ってもらった。それがナショナルPROCEED2600。受信報告書をセッセと書いてベリカードのコレクションに励んだのを思い出す。

 

ベリカードのコレクション1 ベリカードのコレクション2 ベリカードのコレクション3 ベリカードのコレクション4

 ベリカードのコレクション(一部)。私の宝物。これを見ると、当時の思い出が蘇る。
 友人と交換したり、人にあげたこともあったが、これは賞状などと同じ、自分だけに意味あるもの。

 

BCLラジオの魅力

 チューニングダイヤルのメカ、感度メーター、スピーカーの音質・・BCLラジオ全盛期に作られた製品は、その魅力に溢れている。現在このような製品を作る国内メーカーはない。

 70年代に作られたBCLラジオは素晴らしい「顔」をしていた。見ているだけでワクワクする。

 

高値で取引されるBCLラジオ

 やがてBCLブームは過ぎ去り、使わなくなったPROCEED2600は長いこと押入の奥にしまい込んであった。ふと思い立ってヤフーのオークションに出品してみた。

pc2600 ヤフオクに出品したBCLラジオ。注目度が高く、最終的にはなんと、当時の買値より高い値段が付いた。

「なんでこんなに高く売れるんだろう?」

 

 

 最近のラジオは進化している。同期検波が開発されて受信品質が向上した。ワンプッシュで選曲できる仕組みで即座に受信できる。小型軽量で持ち運び容易。しかし何か味気ない。

 

憧れだったICF-6800

 私には当時憧れのラジオがあった。SONYのICF-6800。これはPROCEED2600よりずっと高価で小学生が持てる代物ではなかったが、友人の一人がICF-6800の弟機、ICF-6700を持っていたので触ったことがある。

 チューニングダイヤルにフライホイールが付いていて、勢いをつけて回すとしばらく回りつづけた。この重厚感があり滑らかに回るダイヤルはとても感触が良かったのを覚えている(当時のメーカーカタログによると、ICF-6800の方はオールダブルギアで、フライホイールは付いてない)。

 ラジオのチューニングというと、やっぱりこの「ダイヤル」ではないかと思う。ダイヤルを微妙に操作しながら、未知の電波を探索する、これは、BCLの醍醐味の一つだった。当時はこのダイヤルの操作感が、ラジオの機能の中で特に重視されていたように思う。

 それと、この時代のラジオは音も重視されていて、結構サイズのあるスピーカが、大きく作られたラジオ本体に収められていた。このおかげで、雑音の中でも聞き疲れせず、遠い異国の放送を楽しむことが出来た。

BCLラジオの紹介 BCL入門心得帖(1977年)より

出典:BCL入門心得帖 オーム社 1977年

 写真はBCLブーム絶頂期に作られたハイエンドラジオ ソニー CRF-330K、ナショナル RF-8000 

 

ついに入手!ICF-6800A(2019/4/10)

 ICF-6800A (1981年発売)。当時81,800円[1]。末尾にAが付く本機は6800のおよそ4年後に登場した改良型。BCLブーム末期に登場した最後の通信機型ラジオだった。現在もヤフオクで高値取引されている(2019年4月に未使用新品の本機が出品され、159,000円で落札された)。

 現物を触るのははじめて。重厚感のある素晴らしい外観。アナログメーターやツマミ類の配置が絶妙。実に、いやなんとも、いい顔している。本体に若干仰角がついていることもポイント。

 

TECSUN PL-880 外観

 各種スイッチの操作感がいい。メカがとてもよくできている。

 オールダブルギアをうたうチューニングダイヤルの質感と操作感は、想像してた通りに素晴らしい。別になっているFMチューニングダイヤルの感触もいい。「ダイヤルを回して選曲する」通常は面倒な操作だが、このラジオではそれ自体が楽しい。

 トーンコントロールやRF ゲイン調整など、小さなツマミまで適度なトルク感がある。まるで精密メカを触っているかのよう。ツマミ類がオモチャっぽい感触だったPROCEED2600とは比較にならない。大径スピーカーと十分な容積のエンクロージュアのおかげで音もいい。

 これはたまらない。メカ好きの男心を、どうしようもなく刺激する。見ていても、触っても、持つ人に高い満足感を与える。

何ということだ!

これはラジオだが、このレベルの家電を未だかつて見たことがない。このような商品は、もう二度と作られないだろう。

 ソニーというメーカーは、昔はいいモノ作っていたんだな・・

 

ICF-6800のAチューニングダイヤルの減速機構

 ICF-6800A チューニングダイヤル最初の減速ギア。少し位相を変えた2枚の歯車が重ねてある。これがいわゆる「ダブルギア」。バックラッシを防ぐための工夫とみられる。

 ICF-6800とICF-6800Aとの機能的な違いは、裏面にあるSW感度替えスイッチの有無のみ。中身はPLL回路が改良されているとか。

 

外部アンテナの仕様

 ラジオを使い出すと気づくことがある。70年代と違って、現在は周囲がノイズで溢れている。スイッチング式ACアダプターがそこら中にある。PCも大きなノイズ源になっている。そんなとき、外部アンテナが有効。ICF-6800の外部アンテナ端子の仕様は次の通り。

SW/FM

 本体ロッドアンテナ、M型コネクタ、SWプッシュ端子のどれかを使う。複数の端子を同時に使わないよう、取説に注意書きがある。外部コネクタを使う場合は後ろのスイッチでロッドアンテナを無効にする。

 M型コネクタは内部でSWアンテナ端子とパラに繋がっていてMWには無効。

MW

 内蔵バーアンテナ、プッシュ端子の併用になる。この端子のケーブルはバーアンテナのコアに巻かれていて、SW外部端子のアースとコモンになっている。基本的にバーアンテナと併用する形。

 取説には内蔵バーアンテナでうまく受信できないとき、プッシュ端子に5m以上のアンテナを繋ぐとある。

ICF-6800A 外部アンテナ端子内部配線の様子

 ICF-6800A 外部アンテナ端子裏の内部配線の様子。アースはすべてコモン。M型コネクタはSWアンテナ端子とパラになっている。

 

ループアンテナでMW受信を強化する

 かつてナショナルがMW用のループアンテナ(RD-9170)を作っていた。これがまた大きな代物で、床置きで回転させるため周囲にかなりスペースが必要だった。しかし同調機能の付いたこの大きなアンテナは、確かに有効だった。

 現在手に入るループアンテナはAVアンプに付属する小さいものが多く、これをバーアンテナの付いたラジオに繋いでも変わらない。同調機能の付いた大型のループアンテナがないものか。そう思って見つけたのが下のもの。

TECSUN AN-200

 TECSUN AN-200で直径約23cm。両端ステレオミニプラグのケーブルが付属する。これはもともと同社の S-2000というハイエンドラジオに繋ぐアクセサリだが、他のラジオにも使える。

 先端にバラ線を付けて結線を調べた結果、繋がっているのは先頭のL端子と、マイナスのみだった。中央のR端子は浮いているようでマイナスとアースしても変わらない。両端モノラルミニプラグのケーブルでも同じように使えるはず。

TECSUN AN-200をラジオの隣に置いた様子

 内蔵バーアンテナと併用する場合、ケーブルで本体と繋がずにバーアンテナと同軸になるよう、できるだけ近づけて置く形が最も良く入感した。

 ケーブルを併用すると感度が落ちるのは干渉が原因とみられる。同軸ケーブルを使って離すと干渉は減るが、室内の最良の結果は傍に置く場合と大差なかった。屋外に出してしまえば、室内を超える入感が得られる。

 

ラジオで使えるACアダプター

 現在のACアダプターはスイッチング式がほとんど。これをラジオに繋ぐとノイズが乗って使いものにならない。

 昔はトランスで電圧を落として整流するものが一般的だった。これを「トランス式」「ドロッパー式」という。ラジオにはこのような方式が適している。できれば電圧を安定化した安定化回路内蔵タイプがいい。

 現在入手できるトランス式のアダプターはとても少ない。現在の候補に候補にELPA ACD-01パトスのDKシリーズがある。ELPAは生産完了していて在庫限り。

 

ICF-6800への適合

 ICF-6800をACラインで使うと豆球が常時点灯になって寿命が縮むことから、ACアダプターが奨励されている。純正互換品にAC-D6M(9V 600mA)があったが製造終了していて入手できない。φ5.5-φ2.1でセンターマイナスのものなら合う。

 ELPA ACD-01は電圧を安定化していないが、テストした結果一応使える。負荷変動に弱くボリウムを大きくすると豆球の明るさが音に合わせて変化する。プラグがL字のため、後ろに出っ張らない利点がある。

 パトス DK090-R(9V 500mA 低ノイズ安定化タイプ) がある。センタープラスなので、センターマイナス変換アダプターが必要。純正のPAS071-Eを繋げるとプラグが後ろに出っ張ってしまう。ケーブル付きの極性変換ケーブルをお勧めしたい。

極性反転ケーブルを付けたパトスのACアダプター

 写真はパトス DK090-R極性変換ケーブルを付けたところ。電流容量十分でボリウムをあげても豆球の明るさが変化しない。シールド電線(2851 VW-1)が使われていて電源ラインからノイズが乗りにくい。ACラインで使うより安定している。ノイズが問題になるラジオに最適なACアダプターだ。

 

中古でラジオを買うときの注意

 主な入手先はヤフオクになると思うが、怪しいものが多く出回っている。オーバーホール、プロの方に調整済みと書いてあっても安心できない。

 ヤフオクの出品物はメンテ不十分な品物が多い。私の6800Aはオーバーホール品だったが、メインスイッチの接触が悪くて時々電源が入らない。分解して接点を調べたら酸化が酷かった。この様子からすると接点をメンテしてないものはダメかもしれない。接点を含めた本格的なオーバーホールには相当な費用がかる。

ICF-6800Aメインスイッチの接点

 ICF-6800Aのメインスイッチ。接点は左側。銅のコンタクトが見えるが、相手との隙間に酸化被膜がこびりついていて剥がすのに苦労した。Rational003を塗布して仕上げ。これでこの部分の劣化を防げる。

 

修理記録

FMバリコンの接触不良(2019/12/21)

 FMチューニングダイヤルを回すとガリガリいう。これはFMバリコンの接触不良。分解してみたら、回転軸との接触部(銅合金)に緑青が見られた。

ICF-6800A FMバリコン

 できるだけ清掃してRational003を塗布して復活。FMダイヤルの目盛りがズレていたのでついでに校正。

 

上蓋のスプリング修理(2019/12/21)

 本機は上蓋のロックを外すとスプリングで少し浮くようになっているが、現在ほとんどの個体が壊れているらしい。分解したついでにこれを修理。

軸が折れてしまった上蓋のスプリング機構

 折れてしまった軸の代わりにM2のネジ+平ワ+ブッシュ+M2ナットを使う。ブッシュの外径は1.25の圧着端子がぴったり合う[2]。この全長をスプリングに合わせてカット(グラインダーで削り取った)し、穴を2mmに広げる。M2の平ワは売ってないので板金製作した。他の材料はホームセンターで入手できる。

ICF-6800A 蓋のスプリング補修部品

 組み立てたところ。

ICF-6800A 蓋のスプリングを組み立てた様子

 裏側はナットがかかるよう、リブのところにカッターで少し切欠きを入れておく。

ICF-6800A 蓋のスプリングを組み立てた様子(裏側)

 修理後。ロックを外すと5mmくらい浮いて蓋を空けやすくなった。

ICF-6800A 補修後の蓋

 

<参考購入先>
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<参考文献>
1.SONY BCLラジオ年表 Studio RUM
2.ICF-6800A 天板パネルとメータの修理 木葉下
PL-880 シフト機能はゼロビート調整だった件
A review of the Tecsun PL-880 portable shortwave radio
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