PL-880 vs ICF-6800A SSB比較テスト~中華ラジオは最高峰ソニーBCLラジオを超えたか

 昭和時代の高性能BCLラジオICF-6800Aと、現代の高性能ラジオTECSUN PL-880(中国製)を比較する。昔のラジオに無くて最近のラジオにある機能の一つに「同期検波」がある。今回はこの性能を検証する。

 

ソニー ICF-6800A (1981年)

 昭和時代の高性能ラジオ[1]。PLLシンセサイザー、ダブルスーパーヘテロダイン、SSB、オールダブルギアチューニング機構搭載。プリセレクタを内蔵し内蔵アンテナだけで短波放送が良好に受信できる。

ICF-6800Aの外観

 

TECSUN PL-880 (2013年)

 PLLシンセサイザー搭載。信号処理の多くがデジタル化されている。帯域幅を4段階切り替え可能。本機の同期検波はマニュアルに記載のない隠し機能[2]

 TECSUNは近年ラジオの評価が高い中国のメーカー。本格ラジオが日本国内で作られなくなった現代、昭和時代のナショナルラジオやソニーICF-SW7600GR に似たラジオを作っている。代表機種にS-8800S-2000がある。

 

TECSUN PL-880外観

 

SSBで混信を排除する

 ラジオ放送では搬送波(放送局の周波数)の上下に音声信号(側帯波 USBとLSB)があり、普通のラジオはこれら両方を受信している。SSBは、このUSB、LSBの一方を選んで受信できる機能。一方が隣の放送と混信しているとき、他方を選ぶことで混信から逃れることができる[3]。 

  SSBやUSBはそのままだと音声として聞けないので、搬送波に相当する信号を付け足す必要がある。このときのビート音が出るが、これが聞こえなくなるよう調整することをゼロビート調整という。

 

同期検波とは何か

 LSBやUSBを音声として聞ける形にするために、搬送波とぴったり同期した信号をラジオ内部で作り出し、汚れた搬送波をこれと差し替える。SSBより音質良く混信を除去できるほか、昭和時代「仕方ないこと」とされてきたやフェージング(雑音が周期的に大小する現象)を減らせる効果もある。

 この部分には技術的な課題が多くあるらしい。搭載するラジオが少なく、性能にも差がある。

 ソニーはこの機能の開発に熱心だった。代表機にICF-SW7600GR とICF-SW07(いずれも2005年頃)がある。アナログ式のICF-EX5MK2(2009年)を最後に同期検波搭載ラジオを作っていない。

 

同期検波を試す

 対象電波はKBSワールドラジオ(1170kHz)。すぐ隣の1161kHzに強力なNHK第1があり、これと常に混信している。ラジオの向きを変えても改善しない。

 そこで、PL-880の同期検波とICF-6800AのSSBを使ってこの混信を除去してみる。

 

 

 どちらも混信を除去するという目的は達成できている。

 PL-880の同期検波は耳障りな雑音が出てしまう。これは使えない。隠し機能になっているのはそのためかもしれない。

 ICF-6800AのSSBはわりと良くできていて、ゼロビート調整をきちんとやればNARROWポジションと遜色ない音声が聞ける。

 PL-880のSSBはほぼ無調整でゼロビートできるが、少し音が歪む点が残念なところ。

 

結論

 PL-880の同期検波は実用的でない。もともと隠し機能だし、期待するものではなさそうだ。この後発売されたPL-680は実用レベルにあるという。機会があれば試してみたい。

 ICF-6800AのSSBは比較的使える印象だった。

 混信を減らす方法は他に、単純に受信周波数をずらすことがある。2kHzくらいずらすと混信は完全に無くならないものの、音声品質が犠牲にならない。

 PL-880ではBWボタンでバンド幅を細かく切り替えできる(9.0kHz,5.0kHz,3.5kHz,2.3kHz)。周波数をずらしてバンド幅を狭くする方法が実用的かもしれない。

 

時代はソフトウェアラジオ(SDR)へ

 現代ではPCの計算パワーを使ってソフトウェアラジオを作れる。5千円前後のUSB受信機と高機能な受信ソフトを組み合わせることで手軽にワイドバンド受信機を実現できるようになった。電波を視覚的に見ながら同期検波や帯域幅の調整など自由自在。

 その機能性能は、これ以上ないと思えるところまで来ている。机に設置するタイプの高価な受信機は、こういうものに置き換わっていくだろう。

 SDRでは全部の周波数が一度に入ってしまうので帯域別にフィルタを用意したり、場合によってはプリセレクタも必要になる。中波を受信するためにはアップコンバーターもいる。本格的にやろうと思ったら、オモチャのようなドングルにフィルターやアプコンをDIYでゴチャゴチャ付け足すのではなくRSP2[4]などの一体モジュールが便利だ。

 

ネット時代のBCL

 70年代、電波の探索はとても魅力的だった。現代はradikoなどネットラジオの登場で国内中波やFMのDXに対する関心が薄れ、短波の日本語放送も減ってしまった。海外の電波を探索する魅力はあるが、言葉の壁や受信難度から敷居が高くなっている。

 一方で新しい楽しみ方もできた。SDRに移行して航空無線から飛行機の追跡MAPを作ったり、気象衛星の電波を復調して気象図を作る人もいるようだ。

 

ラジオが流れる生活

 最近ラジオを手に入れて気づいたことがある。Hi-Fiでないラジオの音がBGMとして意外と良いことだ。

 オーディオ装置のBGM(radikoなどのネットラジオも)音が良すぎてPC作業に集中できないことがある。音だけで聞くテレビは煩く感じることが多い。それに今時の大画面テレビは電気を食う。

 ラジオの場合、気になる情報は自然に耳に入り興味ない情報はスルーできる。そのため不思議とPCなどの作業を邪魔しない。時報など定期的にアナウンスされるし、興味ある情報は音だけですべて把握できる。

「PC作業をしながらラジオを聞く」

 今はこのスタイルが懐かしく新鮮に感じる。昭和時代にあこがれたBCLラジオでBGMを流す・・スイッチを入れると、70年代の懐かしい音がが流れてくる。かつてのラジオ少年にとって、これは魅力ある楽しみの一つに違いない。

 

<参考購入先>
TECSUN PL-880
TECSUN PL-680 同期検波を搭載した現行商品の候補です
ICF-6800
ICF-SW7600GR 同期検波のベンチマークに使われるラジオです

<関連記事>
1.ソニーICF-6800とナショナルPROCEED~BCLラジオの魅力
夏休みの自由研究~ゲルマラジオと子育ての難しさ (2012/8/13)

<参考文献>
2.Tecsun PL-880 Hidden Features Reference – Firmware 8820
3.同期検波って? 国内中波放送 遠距離受信のためのwiki
4.ワイドバンドSDR受信機 (有)アイキャスエンタープライズ
THE SWING POST PL-880の詳細レビューがあります
AM同期検波の原理を理解しよう