「ドラクエのカセットに触れて画面がフリーズ」「何回か挿し直さないと画面が映らない」「ボリウムが油でベタベタに・・」どうしてファミコンの接点クリーナーは効果が無かったのか。なぜ復活させたはずの接点はまた調子悪くなるのか。これら真の原因を探求した。
接点は摩耗する
ファミコンのカセットだけでなく、SDカード、USB端子、イヤフォンジャック、充電コネクタなど、およそ抜き差しして使う電気接点は、抜き差しするたびに少しずつ摩耗していく。メッキが摩耗して下地が露出すると錆びが進み、接触不良に発展する。
ファミコンカセットの接触不良は、スーパーファミコンになってだいぶ改善された。写真はそのカセットの接点部。黒く筋が付いた部分が接触部。この黒いものは、端子の金属が摩耗して出来た摩耗粉。
何回か挿し直さないと充電が始まらない・・そんな端子を拡大して見ると、接点が錆びていることがある。
接点がボロボロになっているのに気付かず、何度も抜き差しすると本体側の端子が傷むことがある。
抜き差しする度に摩耗するということは、抜き差しする回数で「寿命」があるということ。
摩耗し始めると、黒い粉(摩耗粉)が研磨剤の働きをして摩耗が加速することが知られている。そこに振動が加わると、急速に摩耗が進む(フレッティングコロージョンという)。
ファミコンカセットの電気接点は、プリント基板をエッチングして作られたパターン。本来このような基板スロットは、何度も抜き差しして使えるものではない。次第に摩耗して調子悪くなるのは当然の結果だった。
摩耗粉を除去しても改善しないのはなぜか
接触が悪い。見ると、端子が黒く汚れている・・
この黒い汚れは、上の写真で紹介したように金属が摩耗して出来た粉だった。これをアルコールなどで取り除いても改善しないことが多い。それは次の理由による。
1.接点が酸化して絶縁皮膜ができている
2.摩耗が進んで厚み自体が減っている(厚みが減ると接触が弱くなる)
ファミコン用に市販されていたのはアルコール系のクリーナー。摩耗粉を取り除けても、酸化した接点の回復はできない。多少調子よくなった(気がする)だけだったはず。
2の状態になったら寿命。つまりその機器は、もう普通に使えない。
接点復活剤の効果が一時的なのはなぜか
接触が悪いところへオイル系の接点復活剤を塗ると、一時的に回復できる。これは次の作用による。
1.接点の表面にできた酸化被膜を除去できる
2.酸化被膜を除去したあと錆びを防ぐ
この作用はいずれも、オイルに含まれる防錆剤(主に界面活性剤)のおかげ。
接点が復活したら、それがずっと続くことを期待したいが、そうはならない。少し経つとまた調子が悪くなる。それは次が原因。
1.塗ったオイルが拡散・流失する
2.オイルが乾燥したり、酸化・変質する(新たな接触不良の原因を作る)
オイルが流失しやすい潤滑剤に「CRC」がある。効果はあるが一時的なもので、しばらくすると見えなくなる。これは界面活性剤によって拡散流失したため。シリコン系の潤滑剤もある。シリコンは表面張力が低いので、同じように拡散流失してしまう。
接点復活剤で回復しない場合、原因は何か
次の原因が考えられる。
1.大量の摩耗粉がある
2.接点の摩耗が進みすぎていた(手遅れ)
ガリの出たボリウムの可変抵抗(炭素皮膜)の表面には摩耗粉が堆積している。ここにオイルを塗ってもあまり改善しない。摩耗粉を取り除いてから、オイルを塗る必要がある。
ガリを回復させようと、オイル無しでガシガシ回すと摩耗が進んで寿命を短くする。ここにはオイルが必要である(できれば新品の時に)。
接点の調子を維持する“コンタクトオイル”
私たちが本当に欲しい接点用オイルは、一時的に接点を復活させるだけの「接点復活剤」ではなく、次のようなものではないだろうか。
1.摩耗を防ぎ
2.錆を防ぎ
3.その効果がずっと続く
このような材料は接点復活剤ではなく、接点保護剤(電気接点用防錆潤滑剤)。通称「コンタクトオイル」と呼ばれている[1]。
良質なコンタクトオイルを塗っておくと、抜き差ししても接点はほとんど摩耗しない。接点の寿命を飛躍的に(場合によっては機器の寿命以上に)伸ばすことができ、いつも調子よく使うことが出来る。
コンタクトオイルに求められる特性
「接点の摩耗を防ぎ、錆を防ぎ、その効果がずっと続く」ためのコンタクトオイルには、次の特性が欲しい。
1.錆び止め効果がある(防錆)
錆び止め効果があるもの。通常、界面活性剤が添加される。
2.オイルが変質しない(安定性)
化学的に安定なもの(蒸発、変質、酸敗などが起こらないもの)。
3.塗ったものに優しい(腐食)
オイルの多くはゴムに染み込んだり、プラスチックを変質させる。このような問題が起こらないオイルを基油としていること。ポリαオレフィン、フッ素オイルがこれに該当する。
4.滑りを良くする(潤滑)
個体接触を防ぐことで接点の摩耗を防ぐ。エンジンオイル同様、粘度が高いほど摩耗を防ぐ作用が強いが、高すぎると油膜が切れにくくなり接触不良になる場合がある。
5.流失しない(流失)
塗ったらその状態のままずっと変わらないこと。集合して水玉になっったり、薄く広がって拡散流失してしまう(CRCやシリコンオイルに多い)ものは使いずらい。
6.電気を通さない(絶縁)
導通性のある添加物を含まないこと。導電性物質が混ぜた商品は絶縁性能を低下させる。
市販品に該当する商品がない・・
上記の条件を満たすコンタクトオイルの市販品で探しても見つからない。そこで当館は、2002年からコンタクトオイルの探索と開発に取り組んだ。
詳しく知りたい人は⇒開発の経緯
コンタクトオイルの結論
数多くの実験を得て開発に成功した商品をご紹介します。
コストと性能を両立した理想的なオイルです。接点の摩耗や錆を防ぎ、新品に近いコンディションを維持できますUSB端子、SDカード、ヘッドフォン端子など、抜き差し頻度の高いところに適した高粘度の003s もあります。
本品はそんなトラブルを事前に予防できる電気接点の潤滑保護オイルです。
フッ素オイルベースのコンタクトオイルです。高温・高真空といった厳しい環境に置かれる機器のコンディションを長期間維持できます。
いずれも「接点の摩耗を防ぎ、錆を防ぎ、その効果がずっと継続する」ことを実現したオイルです。
オイルは新品の時に塗るべし
結局、ファミコンのカセットや本体の接点をクリーナーで清掃しても改善しなかったのは、端子の摩耗が進んでしまった為。
もし、買ったばかりの新品のカセットにRational003を塗布していたらどうなったか。新品の状態のまま、ずっと調子よく遊べていたかもしれない。
当館では機器の調子をいつまでも良い状態に保つため、電気接点にコンタクトオイルは不可欠なものと考えている。その効果は塗った時点から始まるので、新品の時に塗布するのが望ましい。
<参考購入先>
ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ
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金メッキは錆びる~コンタクトオイルで金メッキの錆を防ぐ
乾式接点では最高のスズメッキ(2018/1 追記)
一般の電気機器ではスズメッキされた圧着端子をよく見みる。数千アンペアの大電流を流す端子にも使われている。
裸圧着端子。JIS C2805にこの端子の規定がある。スズメッキの厚みは1μm以上。様々な試験によって性能が保証されている。
2002年に実施した接触抵抗のテストのあと、スズメッキ圧着端子をテストしたことがある。その結果、オイルを塗らなくても軽い接触圧で簡単にミリオームオーダーの小さな値になった。少し押すとゼロ(測定限界以下)。とても小さな接触抵抗を簡単に実現できることがわかった。
スズという金属が柔らかいために、軽い接触圧で容易に新しい金属面を露出する。これが乾式でありながら、低い接触抵抗を実現できた理由と考えられる。
それに金や銀にくらべ価格が安いので、十分な厚みでメッキできて、大電流を流せる。スズメッキされた圧着端子は、乾式で最も優れた電気接点の一つに違いない。
(2020/7/1)相手が金メッキの場合は電蝕の恐れがある。コンタクトオイルを併用するか、同じ金メッキされた端子がお勧め。
コンタクトオイルの開発経緯
コンタクトオイルRationalシリーズの開発経緯をご紹介する。なお、金メッキに対する検証結果は記事を分けた。次をご参照。
金メッキは錆びる~コンタクトオイルで金メッキの錆を防ぐ
ローコスト版~Rational003を開発 (2014/2/2)
Rational001sは優れたオイルだが、高価で使いずらい。もっと気軽に使えるものができないか。
これまでの探索で得たノウハウを生かして検討を進め、フッ素オイルより安価なポリαオレフィンを基油にしたRational003を完成させた。
フッ素オイル基油のRational001sより高音・真空の物性は劣るが、このような特殊環境にない日常用途はこれで十分である。
このオイルは無論、最初に示した選定のポイントをすべて満たし、 「接点の摩耗を防ぎ、錆を防ぎ、その効果がずっと継続く」ことを実現できる。
Rational001sは、マイナス30℃までの低温、または180℃までの高温、真空などの特殊環境用に。それ以外の日常用途ではRational003を、という風に使い分けるのがよさそうだ。
業務用コンタクトオイルとの頂上対決 (2007/5/19)
Rational001sはそんなに良いものだろうか。「勝手に言ってるだけではないの!?」そう思われるかもしれない。
㈱テトラ[2]という業務用のコンタクトオイルを作る専門メーカーがある。同社のオイルは金メッキ接点などに広く使われ、実績がある。
このメーカーの代表商品 A-9050を入手できたので、当館が開発したRational001s、Rational002と防錆効果を比較してみた。
テトラのA-9050。金メッキの錆を防ぎ接触抵抗を低く保つことができるとされる防錆潤滑剤。
性状はやや黄色っぽい低粘度のオイル。
実験方法
前回同様、磨いた鉄(ワッシャ)に塗って屋外に暴露し、発生する錆を比較する。
実験結果
鉄ワッシャを使った屋外暴露実験の結果(36day)
テトラA-9050より、当館が開発したRational001sやRational002の方が、錆の発生が少なかった。これにより、当館のオイルが、業務用の専用オイルに対して決して劣るものではないことを実証できた。
<参考文献>
1.株式会社テトラ http://tetra.jp/
銅の変色を防ぐ金属専用オイルRational002を開発 (2006/5/5)
以前の実験では、Rational001が 銅に対して十分な保護効果がなかった。そこで新しく防錆効果に特化した金属専用オイルを考案した。このオイルは身近な材料で簡単に作れる。
注意!このオイルは金属専用です。プラスチック・ゴムには使えません。
レシピ
・準備するもの
1.合成スクワランオイル、もしくはミネラルオイル(流動パラフィン)
2.ワセリン
3.電子秤(1g単位で計れるもの)
・作り方
1のオイルと2のワセリンを、重量比4:1で混合する。
このオイルを今後、Rational002と称する。
・注意点
均一に溶かすため、湯煎にかけて攪拌する。
スクワランオイルは「天然物」ではなく合成オイルを選ぶ。純粋なクワランは無色無味無臭。
完成したオイルはどろっとして崩れない(チキソ性という)性情を示し、垂直な面に塗っても垂れない。肌に無害なので、お肌のスキンケア[1]に使っても問題ない。
鉄の防錆効果
写真は磨いた鉄(ワッシャ)を屋外暴露した結果。
Rational002は防錆剤を含まないが、空気や水を通さないシール効果が高いオイルを使っている。その防錆効果が防錆剤が配合されたフッ素オイルのRational001sを上回った。
鉄ワッシャを使った屋外暴露実験の結果(48day)
欠点は、腐食(ゴム・プラスチックを痛める)の問題があること。特に天然ゴムに対する相性が悪く、触れると染み込んで膨潤させてしてしまう。プラスチックも材質によっては変形させてしまうから、金属以外は塗布しないよう注意したい。
銅板の防錆効果
写真は銅板の下半分にRational002を塗布し、屋外に9日間暴露したもの。塗ったところの光沢は試験前とほぼ変わらないレベルを保持している。銅板の腐食実験は以前も実施している[1]が、変色しやすい銅板でこのように明確な差が出たのは初めて。
なかなか決め手がなかった銅の防錆に有効なことが確認できた。
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フッ素オイルの濡れ性を改善~Rational001sを開発 (2004/11/23)
フッ素オイルベースのRational001は優れた特性を持つが、唯一「濡れ」が良くない欠点があった。
そこで、微細なフッ素パウダーを分散させて濡れの改善を試みた。このような添加物は少ないほうが良いので、配合比の検討を重ねて、水玉状に集まらないギリギリの配合比を割り出した。
そうして出来た改良版が Rational001s。
このオイルは最初に示した選定のポイントをすべて満たし、 「接点の摩耗を防ぎ、錆を防ぎ、その効果がずっと続く」ことを実現できる。
しかし、コストに課題がある。フッ素オイルは高価なため、気軽に使うことができない。
フッ素オイルは元々半導体や、宇宙のような高温&真空の環境に使われる。コンタクトオイルに使うには、勿体ない物質だ。
市販品の評価まとめ (2002/7/12)
これまで実験に使ってきたコンタクトオイルの特性をまとめてみた。
表1 コンタクトオイルの評価
オイルの種類 | ベースオイル | 防錆 | 安定性 | 腐食 | 潤滑 | 濡れ(流失) |
CRC | 鉱油 | ◎ | × | × | ◎ | ◎(×) |
接点復活王 | ポリαオレフィン | × | △ | ◎ | ○ | ◎(×) |
エレクトロルーブ 2AX | シリコン? | × | ○ | ○ | △ | ◎(×) |
SETTEN No.1 | スクワラン | △ | ○ | △ | × | 〇(△) |
Rational001 | フッ素 | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | △(◎) |
SETTEN No.1は「カーボンコーテッドダイヤ」という導電性の粉末を含む。これは接触抵抗を下げるのに貢献するが、研磨剤になる可能性がある。
フッ素オイルベースのRational001は半永久的に劣化しないが、ガラスや金属の表面に塗ると集合して水玉状になってしまう(濡れが良くない)ことが新たにわかった。
防錆剤入りのフッ素オイルを検証する~Rational001誕生 (2002/7/10)
精製された純粋なオイルには防錆効果がないことが前回の実験でわかった。
化学的に安定なフッ素オイルで防錆剤が配合されたものはないか。そんな商品を探してみたところ、N社で一つだけ見つかった。今回はこの商品の防錆効果を検証した。
実験方法
比較対象は、SETTEN No.1を選んだ。試験方法は、よく磨いた鉄の試験片にオイルを塗り、0.5%の食塩水を滴下。この方法は、簡易ながら防錆効果を素早く評価できる。
実験結果
以下は実験結果(2002年7月)。 試験片は左から、未処理、SETTEN No.1、今回入手したフッ素オイル。
未処理のものは激しい錆びが認められる。SETTEN No.1も少し錆びている。フッ素オイルは全く錆びていない。点のように見える残留物は、食塩の結晶。
皮を剥いた電線の保護効果について調べるため、銅板を使って10日間屋外に置いてみた。
左から、接点復活王、CRC、スクワラインオイル、今回入手したフッ素オイル。下2/3だけにオイルを塗って未処理部分と比較ができるようにした。
多少効果があるのがCRCとフッ素オイル。他は境界がはっきりせず、未処理部分とあまり変わらない。銅の腐食防止に関しては、いまのところ十分有効といえる策がない。
最後に、前回同様、生釘に塗って2週間屋外に暴露してみた。
左から、未処理、CRC、今回入手したフッ素オイル。前回は、CRCがベストだったが、フッ素オイルも同じくらいの効果が出ている。
蒸発減量
前回のテスト結果(2002/6/8)に今回入手したフッ素オイルを追加したものを次に示す。100℃の蒸発減量はほぼゼロ。常温では半永久的に無くならないと予測される。
まとめ~防錆剤配合のフッ素オイルが有用
今回の実験で、防錆剤が配合されたフッ素オイルで、良好な防錆効果が得られることを確認できた。(このオイルは入手が難しいので、Rational001として小分け販売することにしました。)
オイルの防錆効果を検証する (2002/6/8)
コンタクトオイル5種(エレクトロルーブ、接点復活王、SETTEN No.1、HP-500、CRC)の加熱による蒸発量と防錆効果について調べてみた。
実験方法
生釘を脱脂洗浄後、オイルを薄く塗って屋外の雨の当たらない場所に2週間ほど暴露する(2002年6月)。
実験結果
上は新品の状態で、下が2週間後。塗布したオイルは左から、未処理、HBの鉛筆、エレクトロルーブ、接点復活王、SETTEN No.1、HP-500、CRCとなっている。
右2つ(HP-500、CRC)以外は未処理品とほとんど同じ。HP-500はグリース。厚い皮膜が作れるためか、錆が少ない。CRCは防錆剤が配合されているので、その効果が結果に現れている。
結論~純粋なオイルは錆び止めにならない
今回のテストで重要なことが一つわかった。それは、防錆剤を配合していないオイルは、錆び止めにならないこと。
鉄の表面には水分がついているし、オイル自体、水分を含むことが出来るから錆びるのは当然。オイルが錆止めになるという話は、防錆剤入りのオイルを使った場合に限られる。
蒸発しにくいオイルはどれか (2002/6/8)
蒸発しにくいものほど効果が長続きする。そこでコンタクトオイル5種(エレクトロルーブ、接点復活王、SETTEN No.1、HP-500、CRC)を加熱して蒸発量を調べてみた。
実験結果
20℃で放置すると時間がかかりすぎるので、100℃で加熱を続けて蒸発を加速させ、重さの変化を測定した(2002年6月)。
1位 HP-500、エレクトロルーブ
この2つは熱をかけても粘度の変化が少ない。エレクトロルーブのベースはシリコンオイルらしい。HP-500はフッ素オイルベースなので蒸発量はとても少ない。
2位 スクワランオイル(SETTEN No.1)
加熱すると粘度が大きく低下するので2位とした。
3位 接点復活王
ベースはポリαオレフィン。スプレータイプのため揮発成分を多く含む。液状タイプではもっと上位になると思われる。
4位 CRC
加熱を開始するとあっというまに70%以上が蒸散し、あとに粘度の高い残留物が残った。スプレータイプの潤滑剤は揮発成分を多く含むため、このような結果になる場合が多い。
オイルを塗ると導通が良くなるのはなぜか (2002/5/18)
「オイルは絶縁物だから、塗ると逆に導通が悪くなる」そんな風に思う人も多い。そこで、いくつかの商品について接触抵抗を測ってみた。
材料
左から、CRC、サンハヤトの接点復活王、エレクトロルーブ PLUS 2AX、SETTEN No.1、HBの鉛筆。
このほかに、モリコート HP-500(フッ素グリース)も用意した。
CRCはどこのホームセンターでも売っている安価な防錆潤滑オイル。
接点復活王は最近登場した高性能コンタクトオイルで、ほぼ100%のポリαオレフィンから成る。
エレクトロルーブは過去定評のあったコンタクトオイルで、現在は手に入らない。
SETTEN No.1はスクワランオイルに炭素の粉末を混ぜた某研究所(現在は㈱クリプトン)の有名な商品。
HBの鉛筆は某サイトで「コンタクトZ」と称して紹介されているもの。
HP-500はパーフロロポリエーテル(フッ素オイル)をベースにフッ素樹脂で増稠した高級グリース。
テスト方法
実験に使う試料の形状は、平面と球面、突面(あるコネクタのオス端子先端)の3種類を用意した。これらはいずれもニッケルメッキされたもの。実験は平面に対して球面、あるいは突面を当てるようにした。面圧は、手動で軽く当てる程度とし、出来る限り力を均等にしている。
接触抵抗の測定は、1ミリオームまで計れるデジタルテスターを用いた。コンタクトオイルの塗布はできる限り実態に近い形とした。
テスト結果
測定結果は以下の通り。細い線はバラ付きの範囲を示し、黒点は中央値を表している。
考察
1.オイルを塗ると接触抵抗が安定する(導通が良くなる)
オイルを塗ることで未処理に対し確実に良くなる。これは、潤滑作用と、ごく薄い皮膜の部分で導電が得られるためと考えられる。
2.オイルによる効果の差はない
CRCもポリαオレフィンもフッ素も、得られる接触抵抗はほとんど同じ。オイルの違いは、長期的な性能に現れてくるものと考える。
3.導電物質は接触抵抗をさらに下げる
鉛筆の性能がオイルより若干いい。これは黒鉛の粉末に導電性があるためと考えられる。但しオイルではないので、防錆効果はない。SETTEN No.1は文字通りNo.1の成績を収めた。
SETTEN No.1にはおもしろい性質がある。オイルの表面張力につられ、炭素の粉末が接触点に向かって集合するのだ。例えば、SETTEN No.1をポチョンと垂らして、接触子をあてると、あれよあれよというまに接触抵抗が下がって、ほぼゼロになってしまう。
導電物質の塗布は効果的だがリスクがある。絶縁抵抗や誘電率などのスペックを低下させる恐れがあること、塗布したものの除去が困難になることだ。
4.接触圧が低いと導通が悪くなる
オイルを塗ると接触抵抗が下がって接触が安定するが、接触圧が低いと絶縁になってしまう。この様子を次に示す。
図は、接触圧と接触抵抗の関係を示した模式図。オイル接点と乾式接点の違いをよく見てほしい。
オイル接点には油膜が切れるポイントがあって、接触圧がそれ以下だと絶縁体の油膜によって電気が通らない。このポイントは、表面粗さやオイルの粘度によって異なる。一般に表面が平滑なほど、オイルの粘度が高いほど、油膜が切れにくい。
ところが、油膜が切れるポイント以上の接触圧をかけると、乾式より低い接触抵抗で安定化できる。これが、コンタクトオイルを塗るメリット。
なぜオイルがあると接触抵抗が下がるのか
通常、接点の表面は「酸化皮膜」や「汚れ」で覆われている。接点同士を押し当てるとこの皮膜を突き破り、導通が得られる。このとき新しい(腐食していない)金属面が露出するが、空気に触れていると直ちに酸化して酸化被膜が作られる。
周りにオイルがあれば、このような酸化被膜が作られない。これが、オイル接点で接触抵抗が下がる理屈と考えられる。
乾式接点の接触抵抗は次第に上昇する
乾式の電気接点は空気に触れているので時間とともに腐食が進み、接触抵抗が次第に上昇していくことが知られている。
そこへ振動が加わると磨耗粉が発生し、接触抵抗が急激に増加する「フレッチングコロージョン」と呼ばれる現象が起こることがある。
ピンケーブルや電源ケーブルを交換することで、音が変わることがある。この要因の一つに、上昇していた接触抵抗がリセットされたことが挙げられる。
オイルが接触抵抗を低い状態に保つ
オイル接点では周囲がオイルで満たされているため、空気に触れない。そのため腐食が進行せず、接触抵抗を低い状態に保つことが出来ると考えられる。
<参考購入先>
Rational003
コストと性能を両立した理想的なオイルです。接点の摩耗や錆を防ぎ、新品に近いコンディションを維持できます。
Rational 001s
フッ素オイルベースのコンタクトオイルです。高温・高真空といった厳しい環境に置かれる機器のコンディションを長期間維持できます。
ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ
<関連記事>
iPhoneのイヤホン端子が摩耗した!?~端子やボリウムのガリを復活させる方法
RCAケーブルにお金をかける価値はない~ピンケーブルの選び方
金メッキは錆びる~コンタクトオイルで金メッキの錆を防ぐ