昭和時代の高性能BCLラジオICF-6800Aと、現代の高性能ラジオTECSUN(中国製)、SDR(ソフトウェアラジオ)の現状と、テレワークに使うメリットを紹介。
BCLラジオとは
BCL( Broadcast Listening / Listeners)とは、放送(特に短波による国際放送)を受信して楽しむ趣味を指す[Wiki]。1970年代中盤から1980年代初旬にかけて一大ブームが巻き起こった。BCLラジオというのはBCLを楽しむために作られた受信機のことで、この時期に多くの高性能な製品が作られた。
ネット時代のBCL
70年代、電波の探索はとても魅力的だったが、現代では短波の日本語放送は数えるほどしかない。海外の電波を探索する魅力はあるが、言葉の壁や受信難度から敷居が高くなっている。中波も全国の放送がradikoでネットで配信されるようなり、高性能なラジオを使って遠くの電波を捉えるDX(DXing=遠距離受信)の楽しみがなくなった。
近年パソコンの能力が著しく向上し、BCLラジオと同等以上の機能をSDR(ソフトウェアラジオ)で作れるようになった。SDRではラジオより広いバンドの受信が可能であり、航空無線から飛行機の追跡MAPを作ったり、気象衛星の電波を復調して気象図を作る人もいるようだ。
BCLラジオの例
現在BCLラジオを作る国内メーカーは無い。TECSUN(中国)が数少ないメーカーの一つとなっている。
ソニー ICF-6800A (1981年)
BCLブーム末期に登場した高性能ラジオ[1]。PLLシンセサイザー、ダブルスーパーヘテロダイン、SSB、オールダブルギアチューニング機構搭載。プリセレクタを内蔵し内蔵アンテナだけで短波放送が良好に受信できる。
TECSUN PL-990 (2020年)
PLLシンセサイザー、同期検波搭載。現在手に入る全部入りラジオ。TECSUNは近年ラジオの評価が高い中国のメーカー。昭和時代のクーガーやソニーICF-SW7600GR に似たラジオを作っている。代表機種にS-8800、S-2000がある。
ソフトウェアラジオ(SDR)
現代ではPCの計算パワーを使ってソフトウェアラジオを作れる。5千円前後のUSB受信機と高機能な受信ソフトを組み合わせることで手軽にワイドバンド受信機を実現できるようになった。電波を視覚的に見ながら同期検波や帯域幅の調整など自由自在。その機能性能は、これ以上ないと思えるところまで来ている。
SDRでは全部の周波数が一度に入ってしまうので帯域別にフィルタを用意したり、場合によってはプリセレクタも必要になる。中波を受信するためにはアップコンバーターもいる。本格的にやろうと思ったら、オモチャのようなドングルにフィルターやアプコンをDIYでゴチャゴチャ付け足すのではなくRSP2[4]などの一体モジュールが便利だ。
テレワークのBGMとラジオが流れる生活
最近気づいたことがある。Hi-Fiでないラジオの音がBGMとして意外と良いことだ。テレワークで静かな室内にいると寂しく思うときがある。何かBGMが欲しいと思って音楽をかけると、仕事に集中できない問題が起こる。
いろいろ試したところ、オーディオ装置から出るBGM(radikoなどのネットラジオも)はたとえ小音量でも集中力を奪われる。原因は、音質が良すぎるせいだろう。テレビは煩く感じることが多い。映像メインなので注意がそれてしまう。それに今どきの大画面テレビは電気代もかかる。
ラジオの場合、気になる情報は自然に耳に入り興味ない情報はスルーされやすいようだ。そのため不思議とPCなどの作業を邪魔しない。時報など定期的にアナウンスされるし、興味ある情報は音だけですべて把握できる。
「PC作業をしながらラジオを聞く」
昭和時代にあこがれたBCLラジオでBGMを流す・・スイッチを入れると、70年代の懐かしい音質で声や音楽が聴ける。かつてのラジオ少年にとって、これは魅力ある生活スタイルに違いない。
BCLラジオの性能
混信除去性能を調べる
夜にラジオを聞くと、別の電波が混じって聞こえることがある。これを混信という。多くの電波がひしめく昭和時代、混信少なく受信できる性能が重要だった。この性能を高める機能に、SSBと同期検波がある。
SSB(Single Side Band)
ラジオ放送には搬送波(放送局の周波数)の上下に音声信号(側帯波 USBとLSB)がある。一方が隣の放送と混信しているとき、他方を選ぶことで混信から逃れられる[3]。
昭和時代のBCLラジオにはSSBという機能が付いていた。これはUSBとLSBのどちらか一方を選んで受信できる機能。SSBやUSBを切り出したままだと音声にならないので、搬送波に相当する信号を付け足す必要がある。このときのビート音が出るが、これが聞こえなくなるよう調整することをゼロビート調整という。
同期検波とは何か
LSBやUSBを音声として聞ける形にするために、搬送波とぴったり同期した信号をラジオ内部で作り出し、汚れた搬送波をこれと差し替える。SSBより音質が良くなるほか、昭和時代「仕方ないこと」とされてきたフェージング(雑音が周期的に大小する現象)を減らせる効果もある。同期検波はBCLブームの後に開発された機能なので、昭和時代のラジオには付いてない。
同期検波には技術的な課題が多くあるらしい。搭載するラジオが少なく、性能にも差がある。ソニーはこの機能の開発に熱心で、代表機にICF-SW7600GR とICF-SW07(いずれも2005年頃)がある。アナログ式のICF-EX5MK2(2009年)を最後に同期検波搭載ラジオを作っていない。
同期検波を試す
ICF-6800AとTECSUN PL-880を使って、この性能の違いをテストした。対象電波はKBSワールドラジオ(1170kHz)。すぐ隣の1161kHzに強力なNHK第1があり、これと常に混信している。ラジオの向きを変えても改善しない。そこで、PL-880の同期検波とICF-6800AのSSBを使ってこの混信を除去してみる。
テスト結果
どちらも混信を除去するという目的は達成できている。PL-880の同期検波は耳障りな雑音が出てしまう。これは使えない。隠し機能になっているのはそのためかもしれない。
ICF-6800AのSSBはわりと良くできていて、ゼロビート調整をきちんとやればNARROWポジションと遜色ない音声が聞ける。
PL-880のSSBはほぼ無調整でゼロビートできるが、少し音が歪む点が残念なところ。もともと隠し機能だし、期待するものではなさそうだ。
他の手段
混信を減らす方法は他に、単純に受信周波数をずらすことがある。2kHzくらいずらすと混信は完全に無くならないものの、音声品質が犠牲にならない。
PL-880ではBWボタンでバンド幅を細かく切り替えできる(9.0kHz,5.0kHz,3.5kHz,2.3kHz)。周波数をずらしてバンド幅を狭くする方法が実用的かもしれない。
<参考購入先>
TECSUN PL-990 同期検波を搭載した全部入りラジオ 2021年のお勧めです
ICF-6800
ICF-SW7600GR 同期検波のベンチマークに使われるラジオです
<関連記事>
1.ソニーICF-6800とナショナルPROCEED~BCLラジオの魅力
夏休みの自由研究~ゲルマラジオと子育ての難しさ (2012/8/13)
<参考文献>
2.Tecsun PL-880 Hidden Features Reference – Firmware 8820
3.同期検波って? 国内中波放送 遠距離受信のためのwiki
4.ワイドバンドSDR受信機 (有)アイキャスエンタープライズ
5.ミニーの独り言 ‘PL-680’ カテゴリーのアーカイブ
THE SWING POST PL-880の詳細レビューがあります
AM同期検波の原理を理解しよう