圧力鍋を使うと調理時間が短くなるというが、具体的にどのくらい短くなるのか、値を示した資料が見当たらない。こで今回は、これを計算で求めてみた。
圧力鍋の圧力はどのくらいか
写真は我が家にあるパール金属の圧力鍋 H-3553。圧力が2段階切り替えできる。説明書によると、高圧100kPa、低圧60kPa。
この数字は大気圧を基準としたゲージ圧。実際の調理圧は、これに大気圧(≒101kPa)を加算した値、つまり 201kPa、161kPaになる。
ちなみに1気圧≒101kPaである。
大気圧では水の温度は100℃より上がらない。火力を増やしても泡が増えて水の蒸発が早まるだけ。
圧力をかけて気圧を高めると、沸点が上昇して水を100℃以上にできる。すると調理時間が短縮される。これが圧力鍋を使うメリット。調理に寄与するのはあくまで「温度」であり、圧力で食材が柔らかくなるわけではない。
気圧と沸騰温度の関係
水の沸騰温度と気圧の関係は、SON-NTAGの式で求められる。この計算式は複雑なので、計算結果をグラフにしたものを示す。大気圧(101kPa)では100℃である。
この図から気圧をあげたときの調理温度がわかる。 例えばパール金属 H-3553は、低圧161kPa、高圧201kPaだから、低圧で113℃、高圧では120℃で調理している。しかしこのグラフからは、それで時間がどう短くなるのかまでは解らない。
気圧と調理時間の関係を求める
加熱調理を化学反応と捉えると、アレニウスの法則(10℃半減則の目安)が適用できる。すなわち、調理温度をΔT上げた場合の調理時間 L は、次の式で表せる。
L=L0・2(ー0.1ΔT) ΔT:100℃との温度差、L0:100℃の調理でかかる時間、L:予測調理時間
この式を使って図1の縦軸を時間にしたのが次。縦軸の数字は大気圧(101kPa)を100としたときの予測調理時間(%)。
例えばパール金属 H-3553は、低圧161kPa、高圧201kPaだから、図2から低圧なら40%、高圧なら24%に調理時間を短縮できる。
60分かかる煮込み料理も、高圧にすれば 60×0.24=14分で済む 。これはエネルギー消費や時間の面から見て、たいへんな効率アップといえる。
圧力鍋の欠点(食材の変質)
高圧にすると調理時間が短くなるが、なんでも高圧にすればよいというものではない。欠点の一つに高すぎる温度による食材の変質がある。
肉料理では低圧の方が美味しくできるので、低圧と高圧を上手に使い分けるようにしたい。
余熱調理の効果
圧力鍋は火を止めた後すぐに蓋をあけられない。すぐに蓋をあけたい場合は水で強制冷却するが、一般には自然に冷ます「余熱調理」をする。このプロセスも100℃を超える為、煮込時間に加算できる。
通常は火を止めて5分(低圧では3分)程度放置すれば、蒸気を安全に抜ける圧力まで下がる。この5分がどの程度の煮込時間に相当するのだろう。これは時間を細かく刻んでその温度ごとに上式で調理時間を計算し、積算すれば求まる。これを計算した結果を次に示す。
図から、高圧5分の余熱調理が、12分の煮込に相当することがわかる(低圧3分では5分の煮込に相当)。
この時間を煮込時間に加算することで、より効率よく高圧調理ができる。
圧力鍋の欠点
調理時間を短縮できる圧力なべも良いことばかりではない。次の欠点がある。
1.途中で蓋を開けられない(気軽に食材を出し入れできない)
2.水分の蒸発が少ない(短時間で調理を終える為)
これらのため、通常の煮込みのレシピがそのまま適用できない。水の量や、食材を入れ方などについて修正が必要。
ジャガイモなど煮崩れしやすい食材は一緒に調理できない。これは別に調理することになる。
水分についてはあらかじめ水を減らしておく手がある。食材の関係で減らせない場合は、高圧調理が終わった後、蓋無しで加熱して水分を飛ばす。
写真は中華まんの蒸し器として紹介した[1]曙産業 レンジでらくチン RE-279 でジャガイモを蒸したところ。
元々ゆで卵用だが、レンジで簡単に蒸し調理できる数少ない調理器。圧力鍋とセットで活用したい。
実例
鶏肉のシチュー。水を少なめにして、高圧5分+余熱5分。これは5/0.24+12=33分の煮込みに相当する。
別途調理しておいたジャガイモとブロッコリーを入て完成。肉類が大変柔かく仕上がる。カレーも同じようにして出来る。
とろけるスペアリブ。普通にやると1時間以上かかる調理だが、高圧15分+余熱5分+煮込5分。これは15/0.24+12+5=80分の煮込みに相当する。
最初に肉が沈むだけの水深が必要。最後の煮込みで水分を飛ばす。
<参考購入先>
圧力鍋
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