IHで鉄のフライパンを最も効率よくシーズニング(油ならし)する方法

シーズニングとは、鉄製のフライパンなどに「油ならし」をおこなうこと。この儀式を経ると、鉄のフライパンは生涯使える素晴らしいアイテムになる。ところが、これに関するマトモな情報がネットにない。あるのは「プロ」「料理研究家」と称する人の不確かな経験則のみ。そこで今回は、これについて化学的に調べ、そのうえで導き出した最も合理的な方法をご紹介する。

油慣らしが終わったフライパン

IHで油慣らしが終わったフライパン

鉄が「くっつくかなく」なる原理

 鉄に油を塗って加熱すると、表面に黒っぽい皮膜ができる[1]。これには、次の性質がある。

1.強固に密着し、容易に剝がれない
 剥がれも使ううちに修復される。耐久性はフッ素コート以上。
2.酸素を通さない
 これによって鉄が錆びない。時間が経つと鉄の表面に黒錆が形成され、真っ黒になる。
3.食材がくっつかない
 表面の「馴染み」が改善され、油膜が切れにくくなる。これによって焦げ付きが防止される。
4.耐熱温度が高い
 高温で黒くなっても剥がれず機能を維持する。

 油の酸化皮膜は一種の「汚れ」であるが、それをあえて残し、私たちにメリットのある皮膜として活用している。鉄と油は非常に相性のよい組み合わせであり、鉄のフライパンはこの皮膜なしには成り立たない。従い、これをいかにうまく形成するかがポイント。

※:当サイトではこの性質を金属のさび止め[4]に活用し実績を得てきた。

 

皮膜ができる原理

 油が酸素と反応して固形物ができる。これを酸化重合という。この原理は「自然塗料」として市販されているオイルステインと同じ。硬化速度は温度に比例する。つまり、

1.薄いほど
2.温度が高いほど

早く硬化する。ただし、この被膜の完成をもってシーズニング終わりではない。

 シーズニングには2段回ある。最初にできるのは、酸化重合した褐色の被膜。短時間でできるが、この被膜は弱い。その後使い続けると被膜が褐色から黒褐色に変わる。これが最終形。つまり、

予備乾燥→焼き付け

の2工程で、塗装と同じである。写真は黒褐色化した油の酸化被膜。

油の酸化重合被膜

 写真はフライパンに焼き付いた酸化被膜(最終形)。ここまで化学反応が進むと、金属たわしでこすっても取れない。

油の酸化重合被膜の最終形

 

<補足>
 油の種類によって固まりやすさが異なる。自然塗料は元々固まりやすいアマニ油やひまわり油などが使われ、早く固まるように硬化促進剤が配合されている。これらの自然塗料を使うと非常に早いが、撥水剤や硬化促進剤に食用に適さない成分が含まれている場合がある。

 食用油はその逆で、酸化や固化を防ぐための酸化防止剤が配合されている[2]。これが、食用油を使ったシーズニングに時間がかかる原因となっている。

 

IHで難しい理由

空焼き防止の温度センサーが内蔵されていて、火力を強めても220℃くらいから温度があがらない。つまり焼き付けの工程がなかなか進まない。

堅牢な黒い酸化被膜を作るためには250℃~300℃に加熱して焼き付けないといけない。これがIHのシーズニングを難しくしている。

 

IHを使った皮膜のつくり方

1.フライパンを中火で加熱し、食用油(サラダ油)を小さなキッチンペーパーにごく少量しみこませて薄く塗る。 油はごく普通のサラダ油でよいが、速く乾燥させようと思ったらグレープシードオイル、ヒマワリ油、大豆油などを使うとよい。オリーブオイルは適さない[1]

フライパンに油を塗っている様子

2.煙が見えたら、煙が見えなくなるまで火を弱める。これでだいたい200℃になる。

3.表面の油が弾いて水玉になってくる。これを伸ばしながら褐色に固まり出すまで加熱する。20~30分(油によって異なる)。

茶色くなってきたところ

4.火力を強火にして焼き付ける。被膜が褐色から黒くなって硬くなる。しばらくするとIHの温度リミッターが働いて温度が下がってしまうので、いったん弱火に戻し、温度を下げてから繰り返す。

シーズニング途中

リング状に焼き付くのは加熱コイルがそうなっているため。加熱ムラができるので、フライパンをずらしながら焼き付ける(下の動画参照)。ずらしたまま放置すると変形するので注意。

下はシーズニングが終わった様子。

シーズニング完了

 

 

ネットにみられる間違いや無意味な手法

1.最初から煙を出しながら加熱を続ける
 油が無駄に蒸発するだけ。硬化→焼き付けの2段階工程としなければならない。

2.たっぷり油を注いで加熱
 水深が深いと酸素と反応しない。無意味。

3.くず野菜を炒める
 結局焼き付けの工程。無意味。

 

使い方と日常の手入れ

 調理には必ず油を使い、加熱後に食材を入れる。調理後は原則水洗い(金属たわしNG)でOK。油は必須。皮膜自体が焦げ付きを防ぐわけではない点に注意。

 洗剤を使っても良いが、被膜のモトになる油を完全に取り去らない程度にとどめる。万一焦げついたら水や洗剤でふやかして、スポンジで落とす。タワシでゴシゴシ擦っていいのは、黒い被膜が完全に硬くなってから。

 卵にはレシチンという界面活性物質が含まれている。この働きが温度に比例するので、しっかり加熱した油の上に落とさないとシーズニング済みでも焦げ付くことがある。

シーズニングが終わったフライパンで目玉焼きを焼く様子

シーズニングが終わったフライパンで目玉焼きを焼く様子

 

鉄以外に有効か

 酸化重合皮膜は鉄以外でも形成するが、皮膜が汚く汚れて見えるという外観上の問題もある。やぱりアルミはフッ素コート、ステンレスはそのままで使うのがよいだろう。

 

新品コートの問題

 現代売られているフライパンは錆びを防ぐため何らかの正面処理されているが、厄介なものに、シリコンコートがある。
 これが塗られていると油がはじかれてシーズニングができず、しかも中途半端に焦げ付くなどして使いにくい。シリコンコートされている場合は空焼きして金属たわしでこすり落とすとよい。シリコンは250℃くらいで劣化して剝がれやすくなる。

 IHでは安全のため230℃くらいまでしか温度が上がらないことがある。この温度まで加熱し、冷えてからたわしでこする。面倒だがこれを何度か繰り返すことで、完全に剥がすことができる。

IHでフライパンを空焼きしたときの温度

IHでフライパンを空焼きしたときの温度

シリコンコートをはがしている様子

シリコンコートをはがしている様子

<参考購入先>
鉄のフライパン

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4.クロームメッキの光沢を10年以上美しく保つ~新発見!透明な錆止め コーティング剤

<参考文献>
1.鉄フライパンの油膜とは? 油脂の種類による使いやすさの違い
2.食用油の酸化防止剤
3.鉄製フライパンの焦げつき性について