PCの低騒音化~なぜ自作PCは大手メーカに及ばないのか

 DELL、HPなどの大手メーカ製PCでは問題になるような騒音を出さない。ところが組み立てを代行するショップのBTOや自作PCでは騒音や振動が問題になることがある。これはどういうわけだろう。

 

大手メーカーPCは自作と何が違うのか

 大手メーカーの製品はオフィスで使われることを前提とした商品。そのため騒音や振動が問題にならないように作られている。例えば、最も熱を出すパーツの一つにCPUがあるが、大手メーカーと自作でこの部分の作りがかなり違う。

 大手メーカーの製品ではCPU全体をカバーで覆い、一部がケースの外に連通している構造を見る。カバーの中には音の静かなシロッコファンが内蔵されていて、ケースの外に熱を効率よく排出する構造になっている。

 自作PCでは、この部分が軸流ファンになっている。CPUに向けて設置し、高速回転させてケース内部に熱を撒き散らす形が多い。必然的にファンの音が問題になりやすい。

 ショップのBTOはお客様が選んだ市販パーツをポン付けするだけ。組立を代行しているだけで、一般ユーザーの自作とほとんど変わらない。

 そんな自作PCの騒音をできるだけ下げたい・・そういうニーズは多いようだ。そこで、自作PCで音を下げるためのノウハウを以下にご紹介する。

 

騒音の中身を知る

 騒音は、空気中を伝わってくる「空気伝搬音」と、ファンなどの音源からの振動がケースなどに伝わって音を出す「固体伝搬音」の2つがある。以下詳しく説明する。

 

空気伝搬音

 CPUクーラー(軸流ファン)などから出た風きり音が、ケースの板を透過してきたり、ケースの隙間から漏れてくる。前者を「透過音」後者を「隙間音」と呼ぶ。

 ちなみに、ファンの音源周波数 fsは、ファンの羽根の数をN、回転数をP(rpm)とすると、

  fs=N・P/60 (Hz)

で表される。CPUクーラの場合、回転数4000rpm、羽根の数を7~11枚とすると470~730Hz、換気ファンの場合は、回転数を2500~3000rpm前後とすると、290Hz~550Hz あたりとなる。

 羽根の枚数が多いほど騒音が高周波にシフトして吸音や制振などの対策が効きやすくなる。

 

固体伝搬音

 ファンやHDDの振動がフレームを伝わってケースの板を振動させることで音が出る。なので、ファンやHDDを外して手で持つと消える。

 これらの加振周波数は、回転不釣り合いによるもの。この加振周波数 fbは、回転数をP(rpm)とすると、単純に

  fb=P/60 (Hz)

となる。前述の回転数を当てはめると、CPUクーラーの場合は、67Hz、換気ファンの場合は、42~50Hz、HDドライブの場合は、回転数を5400rpm~7200rpmとすると、90~120Hz あたりが問題になりやすい。

 固体伝搬音の周波数は、空気伝搬音に比べると低い。ケースの騒音をよく観察すると、高い音と、ブーンという低い音の二種類あることに気が付く。高い方の音は、空気伝搬音、低い方の音は、固体伝搬音であることが多い。


 

騒音対策

 騒音対策には順番がある。最初に「音源対策」を行う。すなわち、元を小さくすることから考える。そして次に、空気伝搬音と固体伝搬音のそれぞれについて考える。

 

音源対策

 音源対策では、音の小さい物、加振力の小さい物を選ぶ(または交換する)。これによって、後々の対策が楽になる。

 加振力の小さなファンとHDDを選ぶときのポイントは次の通り。

1.回転数が低い
2.ボールベアリングではなく、流体軸受を選ぶ

 ファンの音源対策では、回転数を下げることが最も有効。同じ風量を得るために、小さなファンを高速で回すより、大きなファンをゆっくり回した方が静かにできる。

 ファンをケースに設置すると音が大きくなる場合がある。特に吸い込み側の周辺に注意したい。吸い込み側の近くに何か物体があると騒音が増える。これは、手のひらを近づけることでも容易に確認できる。

 PCケースを選ぶときは、フロントファンが大径で、かつそのファンの前に十分な空間がある構造のものを選ぶことがポイントになる。

 

空気伝搬音

 空気伝搬音を対策するポイントは次の通り。

1.ケースの音の透過を減らす(透過損失を増やす) 
2.吸音材を入れる
3.隙間を減らす

 透過損失は材料の密度を増やすことで増える。アルミは鉄に比べ3倍音が通りやすい。ケースの材料は鉄とし、できるだけ板厚が厚いものを選ぶ。

 ケースの内部に吸音材を貼ると、内部の騒音レベルが下がり、結果的に隙間からの漏れてくる音を小さくできる。

 吸音材の厚みは厚いほど低い周波数まで吸音できる。20mmあればベスト。吸音材の貼る面積が広いほど、吸音される音の量が増える。

 冷却を重視したケースでは隙間だらけであり、隙間を無くすことが難しい。騒音を重視するなら、もともと隙間の小さいケース(窒息ケース)を選ぶ必要がある。正面のパネルが扉になっているタイプがこれに該当する。

 

個体伝搬音

 固体伝搬音の対策には、ゴムなどを使った「振動絶縁」と、振動が音になって出ていくのを防ぐ「制振」の2つがある。

(1)振動絶縁

 振動絶縁ではゴムを使うが、単に挟めばよいというものではない。ゴムを付けたときの固有振動数fvsが重要になる。これは、振動体の質量をm(kg)、防振ゴムの動的ばね定数をk(N/m)とすると、

 fvs=SQRT(k/m)/(2π)  (Hz)

である。加振源の振動周波数をfv0とし、その比率を

 C=fv0/fvs

とすると、振動絶縁として効果を発揮するためには、Cは1.4以上でなくてはならない。Cは大きいほど絶縁効果が高く、一般には、C=2以上が望ましい。

 ケースファンの加振周波数は、上記で書いたように60Hz前後だから、これをケースと振動絶縁するには、fvsを30Hz以下にできるゴムを設置する必要がある。

 具体的には「フラフラ」になる形にしなければ十分とはいえない。これを実現できる防振ブッシュが市販されている。

 HDDの振動絶縁は本体が重いので振動絶縁しやすい。騒音対策についてよく考えられたケースでは、十分柔らかいゴムを介して取り付ける形になっている(Antec Soloなど)。

 

(2)制振

 ケースの側板に手のひらを当ててみて、振動が感じられる場合は制振対策の余地がある。

 板の制振は、制振材を貼り付けることによって実現できる。制振板は、貼り付ける板材(母材)に対して1/3以上の重さ(面積あたりの密度)、もしくは、母材に対して1/3以上の剛性をもったものを使わないとあまり効果がない。従い、スポンジなどの吸音材を制振材の代わりに使うことはできない。

 具体的な材料は、鉛板、ステンレス板、鉄板、銅板などが使える。切るのにコツがいるが、ガラス板も使える。

 何を使うにせよ、重いもの(面積当たりの密度が高いもの)、剛性が高いものほど効果がある。

 重さや剛性が足りない場合は、厚みを増やすことでカバーできる。例えばアルミの剛性は鉄の1/3しかないが、母材と同じ厚みで使えば十分効果がある。

 

 制振材を貼りつけるために使う材料は、ゴム系の接着剤(ボンドG17)や、薄手の両面テープを使う。あまり堅固に固定して母材と一体にしてしまうと、かえって制振効果が低くなる。

PCケースの側板に0.1mmのステンレスシートを貼り付けた様子 写真は、0.6tの側板に0.1tのステンレスシートを貼り付けたもの。このシートは台所用として売られているもので、粘着付きだから施工は切って貼るだけで終わる。

 

 

 最近は、粘着剤が付いた貼るだけの制振シートも市販されている。

 静音を重視したケースでは最初から制振材が貼られていることが多い。このような商品を選ぶと後から制振処理しなくて済む。

 安価なPCケースは薄いペラペラの板厚を使ったものが多く、振動が出やすい。PCケースはできるだけ厚い板材を使った、重くガッチリ作られたケースを選ぶことがポイントになる。

 

最後に

 PCの騒音が気になる人は、大手メーカ製を検討してほしい。メーカ製は割高だが、騒音対策の手間と費用を考えれば、結果的に安く済むかもしれない。

 

 

<関連商品>
制振グッズ
静音pcケース
PCパーツ

<関連記事>
PCケースの選び方~スイッチ、エアフロー、構造など見るべきポイントを徹底解説!
あなたの知らないPCファンの選び方~風速計で適正動作を確認する
デメリットだらけのアルミ製PCケース~PCケースの放熱について考察する