PCケースの選び方~スイッチ、エアフロー、構造など見るべきポイントを徹底解説!

 「振動が大きい」「音がうるさい」「スイッチが壊れた」ケースの選択を間違うといろんな問題が起こる。10年以上ケースを買ってきた経験から、選び方のコツをご紹介する。

 

ケースは10年以上使える

オウルテック OWL-612 の蓋を開けたところ 写真はオウルテックOWL-612 (2004/7購入品)。当時人気の高かった商品。板厚0.85mm(実測)の鉄板をふんだんに使った頑丈な箱構造で、押しても叩いてもビクともしない。重量は実測8.7kgある。

 10年以上過ぎているが、構造体に劣化はなく、今も十分使える。遮音性も高く、振動による音も出にくい。

 ただ、問題がなかったわけではない。

 

 

PCケースの市場

  PCケースには、冷却性、メンテナンス性、静音性、デザインなどのスペックが求められる。概観は四角い箱だがその設計自由度はきわめて高い。板金加工さえできればケースを作れることから、多くのメーカーがこの市場に参入し、様々な商品を生み出している。

 内部には驚くほど多様のアイデアが見られる。例えばHDDの取り付け一つ取っても、関心するくらい多くの形態が考案されている。 HDDの固定は弾性支持が多いが、きちんと計算して支持剛性を最適化した事例は見られない。

 電源やマザーの取り付け、HDDのサイズなどの基本的な取り合いがPC自作の黎明期から変わっていない。壊れる部分も少ないため、1台買えば10年以上使えるものになっている。

 

相変わらず試行錯誤のエアフロー設計

 PCケースで最も遅れている部分にエアフローの設計がある。ご先祖は電源と排気ファン上部に後置し、フロント下から自然吸気するという単純なものだったが現代ではいろんなところにファンを設置できる形になっている。そのほとんどが流体解析して最適設計をした結果ではなく、単なる思いつきか他社の真似だ。

 ファンの設計は最も難しい部類に入る。市場にはとても効率的とは思えない、見た目が目立つことを狙って作られたような奇妙な異形ブレードの商品を多くみかける(これについては記事を分けた。後述のリンク参照)。

 エアフローについてはほとんどの事業者に設計する力がないので「いろんなところにファンが付く様にしたから、自分で工夫してね」となっている。

 そのため、ユーザーがファンの向きや数、風量など、振動騒音と温度を見ながら試行錯誤しているのが実態のようだ。本記事ではエアフローについても多少触れるので、参考にしてほしい。

 

選び方のコツ

重いほどよい

  ケースを選ぶうえで「板厚」は最も重視すべきスペックになる。厚い鉄板で構成された頑丈なケースは振動騒音の問題が起きにくく、快適な環境を作りやすいからだ。

 重さは仕様から確認できないので実物で実測するか、重量で判断する。重いものほど、たくさん鉄が使われた剛性の高いケースと推測できる。ミドルタワーでは8kgを合格ラインの目安にしたい。

 1万円ちょっと出せば、比較的作りのしっかりした商品が手に入る。それ以上お金を出しても、ファンコンやスロット、電圧切替スイッチなどの付帯機能が増える場合が多い。ケース長く使うので年間コストでみると安い。値段はあまり気にせず作りをよく見て選ぶことが大切だ。

静音ケースの例 ANTEC Solo

 静音ケースとして以前人気のあったANTEC Solo。重量は9キロを超える。OWL-612と構成が似ている。

 Soloとよく似た構成の商品にfractal designがあり、OWL-612やSoloの代替候補になる。

 

 

 

 

端子の品質に注意

 PCケースについているUSBやヘッドフォン、マイク端子は粗悪なものが多い。見た目ではわからないので、展示品があれば試しに刺してみることを勧めたい。ゴリゴリ引っ掛かる感じがするもの、強い力が必要なもの、押す力で端子が沈んでしまうものはNG。

 機械的特性をパスしても安心できない。よくあるトラブルに、「認識が不安定」「スピードが出ない」ことがある。これは、ほとんどのPCケースが端子とケーブル込みの認証試験をしていない為と推測される。

上向きに設置されたUSB端子に詰まった埃の様子

 写真Flactal Designだが、同社の製品にはあまり良いコネクタが使われていない印象。

 上向きの端子は埃が溜まるので保護キャップが必須。

 

 

粗悪な付属ねじに注意

黒く表面処理されたねじと六角スペーサー 表面処理で色の付いたねじはスムースに入らないものが多い。ぐいぐい入れるとねじ山をなめてしまうことがある。

 特に写真のように、マザーの台座(六角スペーサ)のめねじが黒く処理されているものはNG。

 このようなねじは、組み立てに苦労することになりやすい。使う前に、手だけで軽く入ることを確認しておきたい。

 

 

裏面配線は過熱に注意

 裏面配線の例裏面配線ではカバーが無理なく嵌ることを確認する。電線が圧迫されるとその部分が熱を持ち、

 抵抗上昇→過熱→被服溶解→ショート→火災(最悪)

に至る。電源ラインを裏面に回すと綺麗だが、きついと思ったら無理せずオモテ面で空中配線した方がよい。インシュロックもギュウギュウに締めてはいけない。

 

 

 

ダストフィルターは必要か

  ケースにダストフィルターを付けると「集塵機」になりやすい[1]。PC用冷却ファンに多用されている軸流ファンは圧損に弱いのでフィルターが少し汚れるだけで能力が大幅に低下してしまう。中途半端なダストフィルターをつけるくらいなら、フィルターはつけず埃をスルーさせることも検討してほしい。

 ダストフィルターをつけるなら、圧損に強いファン(羽根が半径方向に短いもの)を選ぶ必要がある。
 ファンの正面にフィルターやグリルなどを配置すると気流が乱れて騒音の原因になるため、静音と両立が難しい。

 

NZXT Phantom 240 写真はNZXT Phantom 240 どこから見ても美しいケース。板厚0.85mm(塗装込)、重量約8kg。フロントと上部パネルはプラスチックだが、精密金型を使って非常に綺麗な面の繋がりを実現している。

 隙間だらけの風通しのよいケースだが、防振パッド内臓ファンを搭載し動作音は無音に近い。ダストフィルターは底面にザルがあるだけ。

 上部ファンとフロントファンの手前には十分な空間があり、グリルに起因する騒音が出にくい。よく考えられている。窒息系でなくても無音に近いケースが作れることをこの商品が証明している。

 

 

 

HDDに風を当てるのは正しいか

  ほとんどのケースでHDDに直接風が当たる形でフロントファンが配置されている。ここに風量の大きいファンをつけてガンガン冷やすとHDDの寿命を縮めることがある。その要因には「冷やしすぎ」と「温度ムラ」の2つがある。

 HDDには適正な動作温度があり、一般に40℃前後とされる[1]。これはおそらく軸受オイルの粘性からくる最適動作温度。温度が高いほど有機材料の劣化が早まるので、40℃を上限にして30~40℃の範囲で使うのがよさそうだ。HDDの温度はCristalDiskInfoなどでモニターできる。

 HDDのような精密回転機器は、ハードウェア全体の温度が均一の状態のとき正常に動作するよう設計されている。そこへファンで直接風を当てると、ファンに近い側が冷えて反対側が熱くなる「温度ムラ」ができる。するとHDD本体が熱変形して軸受やヘッドのアライメントが狂い、エラーが増えたり故障の原因になる可能性がある。

HDDをフロントファンの直後に設置した例 HDD1個だけ、フロントファンの直後に設置した例。HDDが冷えすぎるうえ温度ムラができやすい。HDDはファンの風が直接当たらない場所に設置し、ゆっくり空気を循環させて30~40℃の範囲で運転させるのがよいと考えられる。

 HDDに温度ムラがあると、温度条件とは無関係に故障する可能性がある。この点を押さえていないHDDの故障レポートは参考にならない。「HDDの故障は、温度とは無関係だった」などという結論は早計。

 

 フロントファンの役割は2つある。一つはHDDをたくさん搭載したとき、HDDの温度が上がり過ぎないようにするためのもの。もう一つはケースの圧損を減らすためのもの。前者は排気で使ったほうがHDDの気流が安定しやすい。後者は密閉に近い窒息系ケースでフロントしか開口部がない場合に有効だった。

 いずれにせよ、目的を理解して正しく使いたい。

 

破損しやすい電源ボタンに注意

補修したOWL-612の電源ボタン 補修したANTEC Soloの電源ボタン 

 左はOWL-612の電源ボタン(裏側)。端が外れたのでパテ(後述リンク参照)で補修してある。右はANTEC Solo。OWL-612と同じ構造。これも端が取れたので補修してある。ストロークの長い押しボタン式のケースでこの問題をよく見る。

※:ちなみにSolo II ではこの部分がネジ止めに変更されている。

 

制振処理したNZXT Phantom 240のスイッチ周辺部 NZXT Phantom 240の操作スイッチを裏から見たところ 

 写真はNZXT Phantom 240の電源とリセットスイッチ部分。ボタンのバネは樹脂製の片持梁、スイッチはストロークの短いタクタイル。この形であれば壊れない。カチカチ音が響くので制振処理を実施して感触を改善。
  fractal designのDefineはストロークのあるスイッチにボタンを直結。操作感に優れ接点以外の壊れる要素がない。

 

防振・制振処理の勘所

鉛シートで制振処理したケース側板 エプトシーラーで吸音処理したはNZXT Phantom 240の上カバー 

 ケースは買って組んだら終わり、ではなく必要に応じて遮音・制振・吸音対策するもの。施工は必要な部分にだけ、最小限に。使う材料は後から剥がせるものを選ぶ。写真は鉛シートエプトシーラー。アスファルト系の防振材や粘着付ウレタン吸音材など、部材の強度が粘着に負けるものは剥がせなくなるので注意。

 ケース内部の吸音率は一般に低い。吸音材を入れると隙間から漏れ出る音のレベルを少し減らせる。吸音材は内蔵ベイの空きに詰めるような使い方でよく、ある程度詰めたら増やしてもあまり変わらない。吸音材に遮音効果はないので使い方を間違わないよう注意。

Flactal Design Define Miniのフロントパネルを開いたところ

 左はFlactal Designのケース(Define Mini)。静音に配慮したケースで最初から吸音材が貼られている。スポンジの材質はEVA(メーカーに確認)。もし本当ならウレタンのように加水分解でボロボロになる心配はない。

 フロントファンに静圧の高いグリルとフィルターが付く。
 付属するファンは個体差が大きい。動バランスが悪く振動が大きく出るものもあるようだ。ファンコンで風量を落として使うのではなく、取り替えをお勧めする。

 

 

 

電気接点を無劣化にする

 ほとんどの人が電気接点に何も処置しない。使わない端子は裸のまま放置。露出した金メッキ端子はピンホールから錆びてしまう。ヘッドフォン端子やUSBは抜き差しするたびに磨耗し接触が悪くなる。

 カバーのスナップも同様。堅いものは脱着に力が必要で、脱着のたびにHDDに衝撃を与えスナップを破損してしまうことがある。

 「大切な機器を少しでも長持ちさせたい」そう思う人は潤滑オイルの塗布をお勧めする。 

はめ込み式クリップの拡大 はめ込みのクリップや端子にRational003sを塗布しておくと次から楽に脱着できる。

 

 マザーボードの接点にRational003を塗布している様子 電気接点にRational003塗布することで新品の状態をずっと維持できる。使わない端子は右の写真のように養生テープで防塵しておく。

 

 

激安ケースの注意点

 ケースには5千円前後の安い商品がある。見た目、1万円を超えるケースと大差ないように見えるが、実際どうだろうか。
 安いケースは薄い鉄板で構成され、ファンやスイッチ、端子など付属品の品質も良くない。これはメール、ネット、動画のみの用途に適している。グラボを刺して高負荷の処理をさせるものではない。

激安ケースの例 Sharkoon VS4-W 写真はアマゾンで人気の激安ケースSharkoon VS4-W。 指1本で簡単に曲がるペラペラの鉄板で構成されている。付属のケースファンは動バランスの悪い安物。

 安いケースは鉄板が薄く振動騒音が問題になりやすい。一度気になると改善に手間とお金がかかる。モトがペラペラなので改善に限界があり、どう頑張っても1万円を超えるケースと同等になれない。

 

 

 

まとめ~お勧めはこれ!

 ケースは実際に買って組んでみないとわからない。大抵、「まあまあいいが、もうちょっとここが・・」「あそこが・・」といった点で不満が出るもの。例えば、

・HDDの振動でケースがビビる(マウント部分のゴム、グロメットの作りが悪い)
・ファンの音が大きい、うなる(ケースファンが複数付いてくる商品で起きやすい)
・ケースのUSBコネクタの品質が悪い(抜き差しが硬い、挿した機器の動作が不安定)
・ねじがうまく入らない(ネジ部に塗装や表面処理がされている)

などがある。上記をすべて満たすケースは無いが、私の経験では、Flactal DesignAntecCooler master の上位機種を選んでおけば、大きな失敗はしない。

 ケースの品質を知るうえで第一の指標は「重さ」ミドルタワーでは重さが8kg以上あるものを選んで欲しい。

 

<参考購入先>
fractal design OWL612、Solo の代替候補
NZXT 優れたデザインの商品が充実しています。機能も問題ありません
coolerMaster 作りのよいケースを作る代表メーカー
パソコン用ネジセット 品質は値段に比例。黒色クロメート(黒ネジ)の代替に
厚手のステンレステープ 鉛シートの代わりに使える環境に安心な制振材です
オトナシート 剥がせることを確認済みの制振材
NZXTのファン FNシリーズ 防振パットを内蔵したファン。大変静かです
タミヤエポキシ造形パテ 電源ボタンの補修に使ったパテです

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<参考文献>
1.ハードディスク番長