欠点だらけの重曹歯磨きを改良する~炭酸ソーダ歯磨き誕生

「爽やかな香り。良く泡立ち、後味がサッパリ」このようなハミガキが何の役に立っているのだろう。「いくら丁寧に磨いても虫歯が減らない・・」それはハミガキに原因があるのかもしれない。虫歯や歯周病予防に本当に役立つハミガキを考えてみる。

 

虫歯予防に役立つハミガキは無い!?

 もしハミガキきが「虫歯」や「歯周病」の予防に重きを置いていれば、きっと次のようなものになっているはず。

「歯ブラシに乗せられない(垂れ落ちてしまう)。口に入れると変な味がする。泡立ちしない。後味が悪い」

 このような商品は、虫歯予防に効果があってもおそらく売れない。従い作られることはない。つまり虫歯や歯周病に本当に効くハミガキは、市場に無いかもしれない。

 となれば、自作するしかない。

 

歯周ポケットに薬剤が入らない

 ほとんどのハミガキが、剣山のような歯ブラシの上に乗り、毛先の隙間に染み込んでいかない。

 このように粘度の高いものが、歯周ポケットのような細い隙間に入っていくとは考えにくい(唾液で希釈されたとしても)。歯の細かい隙間にも入りにくい。いくら歯を磨いても虫歯が減らない、歯周ポケットが深くなっていく一方なのは、これも要因として考えられる。 

 同じような経験を化粧水の改善でも経験した。いくら顔を洗っても「ニキビ」が減らないのは、毛穴の奥まで洗剤が入らず、汚れを落としていないため。これも粘度の高い洗剤が原因のようだった[5]

 ハミガキの改善ポイントは、高すぎる粘度を下げることになりそうだ。

 

塩分の過剰摂取?世間にあふれる重曹ハミガキのコピー記事

 重曹歯磨きで検索すると大量の記事がヒットする。読んでみると、重曹の粉末で歯が削れてしまうとか、塩分の過剰摂取になるとか書かれている。

 重曹歯磨きの記事は、ほとんどが似たりよったり。これはおそらく他人の記事をコピーして書いたためだろう

※塩分の過剰摂取になる(飲んだ場合は)、歯が削れる(粉で使った場合は)という話の()の中が抜け落ちている。()はオリジナルの記事で書かれていたはず。コピーを重ねるうちに抜け落ちていったとみられる。

 そんな重曹歯磨きにも、市販のハミガキにない優れた点がある。それは、アルカリ性で、粘度が低いこと。そこで、重曹ハミガキをベースに改善を試みる。

 

水溶液にして増粘剤を加える

 ハミガキでは粘度が高すぎるが、水溶液では歯ブラシから落ちてしまって使えない。この中間のものが欲しい。重曹歯磨きのレシピが粉末ペーストなのも結局ある程度、粘度が欲しいため。この課題は、増粘剤を加えることで解決できる。

 増粘剤の候補は、以前化粧水を作るときに紹介した[1]カチオン化セルロース(ポリクオタニウム-10)、通称カチセロと、アルギン酸ナトリウムがある。

 カチセロはシャンプーや洗剤、化粧品のほか、ライオンのハミガキに添加されている無害な物質。アルギン酸ナトリウムの方はハミガキはもちろん食品添加物に広く利用されている。

 

重曹を炭酸ソーダに代替する

 重曹(炭酸水素ナトリウム)は弱アルカリなので、これをもう少し強いアルカリに代替する。

 候補に炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ、ソーダ灰ともいう)と、セスキ炭酸ソーダ(炭酸ナトリウムと重曹の中間物質)がある。

 これらは口に入れても問題ない物質。前者はpH調整やこんにゃくの製造に利用されている。当館でも以前、コーヒーの味を長持ちさせる添加剤としてご紹介した[2]

 紛らわしいものに過炭酸ナトリウム(漂白剤)がある。間違って口に入れないよう注意したい。

 

 

食塩を添加する(廃止)

 塩が殺菌に使えることが良く知られている。これは浸透圧に勾配ができて細胞内の水分が脱水されるため。ナメクジに塩をまくとこれがよく観察できる。

 塩分のある中では、塩分の無い状態で繁殖する菌類は生息できない。しかし海水に近い塩分濃度では別の菌が増えるので、濃度の設定が重要になる。

 塩分は微弱な電流を流すイオン機能付き電動ハブラシと相性がいい。実感できないイオンの効果が少しは実感できるかもしれない。

(2018/9/9追記)
 食塩を混ぜるとブラシ側に残り雑菌が繁殖することが判明したので、現在は食塩を使わない形にしています。

 

カチセロで薬剤を停留させる

 虫歯菌はバイオフィルムに覆われている(台所の三角コーナーなどで見るヌメリがそれ)。そのため口腔内を一時的にアルカリにしたり、塩分で満たしても虫歯菌に届かないから意味ないとする意見がある。

 しかし、上記のカチセロを添加するとこの状況が変わる。それは、カチセロが歯肉や歯の表面に吸着する性質がある為。これは手についた洗剤のヌメリが落ちにくい性質と同じこと。

 これにより薬剤が口の中に少し長く留まる。つまり、今まですすぐと綺麗サッパリ無くなってしまったアルカリや塩分を、歯の窪みや歯周ポケットに長く停留させることができる。

 これですぐにどうこうなる、というものではないが、毎日使い続けることで虫歯菌の働きを弱めていく効果が期待できる。

 

フッ素について

 虫歯予防に有効性が検証されている物質にフッ素がある。カチセロと併用することで虫歯予防の効果が高まる結果が報告されている[3]

 ただ市販のフッ素入り歯磨きを使い続けて虫歯がなくなったという報告を聞かない。おそらく市販レベルの濃度では効果がないのだろう。

塗り用のフッ素(フロアーゲル) 写真は歯科医院で使われている塗り用のフッ素(フロアーゲル)。たまたま入手したものだが、一般に流通していないし、毒性が高く使い方が難しいので、紹介にとどめておく。

 

 

 


 

実験

 

アルカリ濃度の検討

 重曹ペーストのpHを測ったところ8.5 。アルカリとしてはやや弱い。今回は汚れ落としの効果を積極的に狙って、重曹を炭酸ナトリウムに代替する。

 使う炭酸ナトリウムの濃度は、0.1%。この水溶液の実測pHは11.6。但し味がちょっと問題。この味が気になる人はセスキ炭酸ソーダにすると改善する。

 ちなみにセスキ炭酸ソーダのpHは9.8(1%25℃、石鹸百科より)。掃除に使うセスキスプレーの濃度は1%程度である。

 

カチセロ最適濃度の検討

 粘度は低いほど良いが、歯ブラシに乗らないと使いにくい。そこで、歯ブラシで使えるギリギリの粘度を探る。最初に導き出したのが、カチセロ5%水溶液。これはシャンプーやボディソープなどと同じ。

 しかし、これを実際に歯磨きに使うと口腔内に吸着して残る為、残留感があることがわかった。

5%カチセロ水溶液を歯ブラシに乗せたところ

 写真は5%カチセロ水溶液を歯ブラシに乗せたところ。

 これで歯を磨いてみると、うがいしても喉の奥に半日くらい残留感が残る。

 

 

 濃度を検討した結果、残留感が許容できる濃度は2%前後だった。化粧水に近い粘度だが、歯ブラシに乗せたあとすぐ口に入れれば大丈夫。

 

「歯ブラシに乗せるのをあきらめて、液体を直接口に入れたら増粘剤は必要ないのでは?」

 

 確かにそんな方法もあるが、カチセロには別の作用もある。それは前述したように薬剤が長時間口の中に停留すること、歯垢を絡め取る(らしい)こと。これらはいずれも、カチセロのモノに吸着しやすい性質から生まれている。

「どうせ増粘剤を混ぜるなら、歯ブラシに乗せて使えるようにしよう、その方が便利よね」

 というのが今の考え。

 

塩分濃度の検討

 とりあえず海水と同じ4%からスタートし、様子をみながら濃くしていく。

 


 

炭酸ソーダ歯磨きのレシピ

(2018.9.9 更新)

材料

水:100cc
カチセロパウダー:2.0g (代替候補:アルギン酸ナトリウム
セスキ炭酸ソーダ:1.0g
エタノール:1cc ( 防腐剤 option)

作り方

 増粘剤を溶かす部分が難しい。カチセロは容器に粉を入れ、冷蔵庫で冷やしておいた水を勢いよく注いで分散させてから手早く電子レンジで加熱する。アルギン酸ナトリウムはダマになりやすいので、最初に炭酸ソーダと混合してから冷やした水を注ぐ。

 

完成した炭酸ソーダハミガキ 完成した炭酸ソーダハミガキき。増粘剤が均一に溶けるまで少し時間がかかる。

 使い方は、これまでのように毛先を上に向けて乗せる、ではなく、ブラシを横向きにしてその上から垂らし、すぐ口の中に入れる形がよい。

 

使用感

 心配していた味の方は問題ない。歯磨き直後の食事やコーヒーが美味しくなった。

 口に含むと魚臭い香りが広がる。これは炭酸ソーダのアルカリと塩分によるものだが、良い香りではない。

 冷たい水ですすぐと口の中に僅かな残留感がある。ラーメンを食べた後、口の中にラードが残る感覚に似ている。これはカチセロのせいだが、しばらく時間がたつと気にならなくなる。

 真っ先に感じる違いは翌朝の口の中。寝る前に磨いた後とあまり変わっていない。今まではどんなにしっかり磨いても翌朝臭かったが、これが改善されている。

 

 


 

その後の使用感 2018/7/17追記

歯垢をカチセロが絡め取る?

 磨いた後のすすぎ水に白いネバネバしたものが混じっている。これは口の中にあった汚れ(歯垢など)。
 このネバネバしたものは水に溶けにくく、カチセロに絡め取られたように見える。

磨きの充足がわかりやすい

 よく磨けていないと、妙な味と匂いが出るので磨けていない部分がわかりやすい。
 市販の歯磨きは口に入れた瞬間、ミントやメントールの香りが広がって味覚と嗅覚がマヒしてしまうので、このような情報がまったくない。

日持ちしない欠点を改善(2018/9/9)

 当初のレシピでは変質が問題だったが、食塩が原因だったことが判明した。

 歯ブラシ側。つまり毛の隙間に残ったハミガキの成分によって、同じく隙間に残っていた雑菌を繁殖させていた(瓶に入れたハミガキの方は、食塩濃度10%以上にして雑菌は繁殖しにくくできた)。

 雑菌の増殖は塩分が原因と見られた。つまり塩分が残っていると吸湿によってブラシの乾燥が妨げられ、水分が保たれて雑菌が繁殖する条件が揃うようである。この問題はアルコールを添加しても改善されなかった。

 この問題はブラシ側を使う都度よく洗浄すれば問題ないが、面倒になってしまうので上記レシピを歯磨きのレシピを食塩を含まない形に変更した。ついでにアルコールを書略した形にレシピを見直した。

 

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カチセロパウダー(ポリクオタニウム-10) 私は大阪ファッションhttps://be-creator.com/で購入しました

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