サイキョーを連呼する某サイトの主人がエレクトロボイスTOUR-X(以前はJBL JRX115だった)を推している。これはSR用(コンサートやイベント用)のスピーカー。能率100dB。過渡応答に優れ民生品では絶対に出ない音が出る。民生品しか見てこなかった人にとっては盲点といえる。
聴感上は「生々しい」「明瞭」「音離れがよい」と感じるだろう。私がオーディオに興味を持ったきっかけも、手を伸ばせば掴めそうなくらいのリアルな音像体験にあった※2。
※2:私が学生のころ、オーディオショップで聞いてショックを受けたスピーカーがこれ。タンノイのアーデンかバークレイ(のどっちか)。オペラが鳴っていて、そこに本当に人がいるかのようだった。
左はその当時のカタログ。タンノイのアーデンとバークレイ(1981年5月 ティアック)
SR用スピーカーの候補
下の表は、15インチ+ホーンを使ったSR用スピーカを並べたもの。能率100dB近いものが多いが、能率が高いと低音が出ない。民生機器では低音を出さないといけないから、94dBくらいが限度のようだ。
SR用スピーカーの候補(2010年4月調べ)
SR用はスピーカー保護のためパンチングメタルが全面を覆うものが多い。
ヤマハConcert Club VシリーズやエレクトロボイスSX300シリーズなど一部の商品はホーン正面にパンチングメタルがない。パンチングメタルを気にする人もいるが、目が波長に対して十分小さい場合ほとんど影響ない。
一番下の3つはJBLのホームオーディオシリーズ。14インチでは能率が低い。S3100は私が使っている機種。2018年の現行機でこれに相当する機種はS4700。長いことこのクラスに能率94dのSPが無かったが、やっと同等のものが登場した。民生機種ではこれが現在唯一の候補。
周波数特性に注意
SR用スピーカーは能率優先で設計されていて周波数特性にうねり(クセ)のあるものが多い。これがSR用をHi-Fiや鑑賞に転用した際に違和感を覚える要因になっている。Hi-Fiや鑑賞用ではできるだけ特性がフラットなものを選ぶ必要がある。
特性がフラットなものを選ぶための第一の注目点はホーンの形状。ホーンの途中に段差がないこと、ホーン出口端がバッフル面と滑らかに繋がっていることに注目したい。
HI-Fi製品の金属ホーンでは「鳴き」を抑えるためダンプ剤が塗布されるが、SR用ではほとんど注意を払われていない。ホーンを叩いて響く場合は、DIYでデッドニングする必要がある[7]。
エレクトロボイスTX1152の周波数特性。低域共振周波数以下がストンとおちている。38cmといえど低音は伸びていない。中域のインピーダンス特性にある高い山が気になる。
エレクトロボイスSX300の周波数特性。ハイ上がりで高域に山谷がある。インピーダンス特性にも高い山。
高域の起伏はホーンの途中に段差がついているせいか。SR用なら問題ないが、音楽再生は落ち着かない音になっている可能性がある。
ヤマハS115Vの周波数特性。滑らかなカーブのホーンを搭載してモニタースピーカーのように特性がフラット。Hi-Fi用途でも問題なさそう。
弟機のS112Vも同様にフラット。SR用でも特性は妥協しない。マジメなモノづくりが伺える。
高能率スピーカーの欠点
高能率スピーカーは軽い振動板を使って中高域の能率を追求している。その結果、中高域が強く張り出した音色のものが多く、低音が出ない。いくら大きいウーファーが付いていても低域は伸びてないので[6]、Hi-Fi用途ではサブウーファーの追加が必要になる。
元々サブウーファーとセットで使うホームシアターでは、小型SR用がメインスピーカーの最適な候補になる[3]。
JRX115のような中型スピーカーではツイータを耳の高さに持っていくための「台」も必用になる。
ウーファが2連のJRX125(現在はJRX225)を選ぶとフロア型となって台が不要になるが、下のウーファからも中域が出てしまうためこの対処が難しく、一般の室内では使いにくい。
SR用に組み合わせるサブウーファーの候補
ここはDクラスアンプで駆動する出来るだけ大型のユニットを使った機種が適している。
SR用サブウーファーは18インチ(口径46センチ)の大型もあるが、LR信号ミックス機能のないパッシブタイプが多く使いにくい。
一応BEHRINGERに候補がある。例えばVQやBシリーズはDクラスアンプのほかハイパスフィルターを搭載し民生品のような使い方ができる。
民生用では密閉式のフォステクスCD250Dが候補になる[8]が、口径が小さすぎるのが難点である。
サブウーファーはクロスオーバーさせて使う
メインスピーカーの低域をカットせずにサブウーファーと繋げるのはお勧めできない。サブウーファーを入れる場合は、必ずメインスピーカーの低音をカットしクロスオーバーさせて使う。
メインスピーカーの低音をカットすると次のような多くの利点がある。
耐入力が増る
歪が減る(ウーファーの振幅が減るため)
アンプ側の負担が減る
箱鳴りによって生じる雑音が減る
周りのものを振動させにくくなる
定在波の影響が軽減される(設置が容易になる)[4]
アンプ選びの課題
サブウーファーを追加でき、メインSPの低音をカット(クロス)できる機能を持つアンプを選ぶ。
このようなことができるアンプは、AVアンプか、一部のHi-Fiアンプしかない(2019年現在、マランツのM-CR612がこれに対応している。サブウーファー端子を持ち、メインスピーカーの低域カットが可能)。
デジタル処理が普通になった今、サブウーファーとのクロスオーバーやレベル調整などは全部デジタル処理の一環でやってしまいたい。
AVアンプはこれが普通にできるが、Hi-Fiオーディオアンプでこれができる商品がほとんどないのが残念なところ。
まとめ
Hi-Fi用に使えるSRスピーカーの、創造館が選んだサイキョー候補は次の通り。サブウーファーとセットで使ってください。今まで体験したことのない音が聴けるはずです[2]。
候補1:ヤマハ S112V
12インチウーファー+2インチドライバーで能率97dB、20.8kg。15インチのS115Vより高応答が望めます[6]。ツイーターが2インチの為、高域の伸びが控えめ。ホームシアター用なら問題ない。
候補2:ヤマハ CBR12
12インチウーファー+1.4インチドライバー、能率96dB、13.9kg。Hi-Fi用ではこれが一番かもしれません。
サブウーファー候補1:EUROLIVE B1500XP
15インチ、Dクラスアンプ、3000W。LR信号ミックス搭載。アンプのLFEかLRラインアウトをXLRに変換して接続する。変換アダプターを使用。
サブウーファー候補2:EUROLIVE VQ1500D
B1500XPとの違いは値段と出力(500W)。ローエンドの伸びが控えめ、ホームシアターに向く。
サブウーファーはどちらもポートを塞いでブーストONして使うことで応答に優れた低音を出せると考えられる。
SR用スピーカーは裸電線を挿すような結線はできません。配線材としてスピコンが必要(Neutrik NL4Fx。末尾Fcは旧製品)。ケーブルはカナレ4S8が定番ですが適当なキャブタイヤケーブル(2スケア2芯)をホームセンターの切り売りなどで買ってもOKです。
サブウーファーを使わない場合はJBL S4700 (15インチ、能率94dB、2018年)が唯一の候補になります。
スピーカー台は、組立式のスチールラックがベスト[5]。例えばこちらの商品がマッチします。足は円形アジャスターに交換してください。
おまけ~某サイトの記述の正しさ
サイキョーを連呼する某サイトの技術的解釈や考察は間違いだらけ。しかし何故か最終結論は正しいものが多い。私はこのサイトを見て、経験と観察だけでも正しい答えを導き出せることを知った。
(2008/2/9 追補)
SRスピーカーではスピーカスタンドが課題だったが、某サイトの主人が解を見つけた。理屈の説明は相変わらず無茶苦茶だが、コーナに配置してツイータの軸線をずらすことでSRスピーカー弱点(低域の弱さと軸上高域のキツさ)を同時に解消できるのは確か。3次元的に自由なセッティングが可能なスタンドはユニークで評価できる。
<参考購入先>
JBL JRXシリーズ JRX215はJRX115の後継機です
サウンドハウス こちらからも購入できます
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<参考文献>
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