レンズ清掃用品の選び方

 レンズ交換式のデジカメが普及してから、自分でローパスフィルタを清掃したり、オールドレンズのレストアにチャレンジする人が増えてきた。ローパスフィルタはカメラの中で最もデリケートな部品。慎重な人は現物を拭く前に適当なもので練習していることだろう。
 ペーパーで鯉の口を作り、クリーニング液を付けて円を描く・・実際やってみると、コーティングされた光学面を綺麗にするのは難しいことがわかる。水滴の跡が残ったり、逆に汚れが増えてしまうことも。なぜ上手くいかないのだろう。あまり知られていないノウハウがあるのではないか。今回はこれについて明らかにする。

 

クリーニングペーパーは何が使えるのか

 光学面のクリーニングでは拭き取りにシルボン紙が広く使われている。キムワイプを使う人もいるが、大丈夫だろうか。私は長いこと、クルマの洗車用クロス(不織布)で代替してきた。CDにキズが付かないこをと確認して以来、透明プラスチックの拭き上げやヘッドライトの磨きに重宝している。

 光学面のクリーニングでも、できるだけ傷つきにくいものが求められる。そこで候補を集めて傷つきにくさを比較した。今回、パルプ繊維系(ティシュペーパー、綿棒、キムワイプ)、レーヨン不織布(シルボン紙、SOFT99 CARラグラグ(レーヨン不織布)。他、コットン系(綿不織布)、PP,PE不織布を用意した。

 写真は候補の一部。キムワイプはパルプ繊維系。
 CAR用不織布の材質はレーヨン、コットン、PP、PEなどいろいろ。シルボン紙より厚くふんわりした素材が多くある。
 CARラグラグはシルボン紙と同じレーヨン100%。シルボン紙より厚みがあって柔らかく、個人的にはシルボン紙より使いやすい印象。
 

 

 ペーパーの候補を割りばしの先に巻いてポリカ(DVDディスク)の表面を強く擦りキズつきの度合いを見る。結果は次の通り

 パルプ>>レーヨン=PP=PE>コットン(脱脂綿)

 パルプ繊維系のティシュ、綿棒、キムワイプの硬さは木と同じ(写真の綿棒の先端は綿ではなくパルプ)。木片でゴシゴシ擦るに等しい。レーヨン、PP、PEはかなり傷つきにくい。医療用の脱脂綿(純粋セルロース)はポリカに対しまったく傷つかない。細かい繊維くずも出ないので、最後の乾拭きに使える。

 

 レーヨンのシルボン紙が広く使われていることから、クリーニングペーパーはレーヨンか、それと同等以下の硬度をもつPP、PE、コットンで出来た不織布が無難。PP、PEといってもいろいろある。パルプ並みに傷つくものもあるので、事前検証が必要。

 

クリーニング液は何がいいか

 IPA、アセトン、トルエンなど脱脂洗浄力に優れた溶剤はいろいろあるが、揮発性やレンズ周辺部品に対する影響の少なさから無水エタノールが選ばれて広く使われている。プロサービスでは効率をあげるため無水エタノールにイソヘキサンなど揮発性の高い溶剤を混合したものが使われているらしい。
 一方、カメラ用品として売られているクリーニング溶液は、そのほとんどに残留物の問題が見られ綺麗に拭きあげることが困難になっている。
 

 写真は左からオリンパスEE-6310、HCL LENSクリーナー(オリンパスEE-3310相当品)、無水エタノール(純度99.5%)、完全無水エタノール。他、界面活性剤にFormula G-510(後述リンク参照)を用意した。

 完全無水アルコールは硫酸銅の無水物に無水アルコールを浸漬してつくったもの。G-510は余計なものを含まない界面活性剤。精製水で10倍~20倍に希釈して使う。

 

 HCL LENSクリーナーの使用感は良いが残留物が見られる。洗いに使うには便利だが、仕上げに使うことはできない(元の溶液の特性か、パッケージの問題か不明)。

 溶剤の揮発速度は次の順になる。

 EE-6310>HCL(EE-3310)>>完全無水アルコール≒無水アルコール

 EE-6310はイソヘキサンと無水エタノールの混合物。イソヘキサンを多く含むため揮発が速い。無水エタノールを混ぜることで揮発速度の調節ができる。

  溶剤で光学面を拭くと水滴が残ることがある。写真は24℃63%RHのときDVDの「表面に2滴、各種溶剤を滴下した結果。水滴が見えるが、この正体は「結露」で出来た水。
 光学面は一度にたくさんの液で濡らさないこと。冷えてしまった場合はドライヤーで温めてから作業するといい。

 

 

 

クリーニングスティック

 あまり売られていないが簡単に自作できる。マイナスドライバー先端のようなものを作ればよく、DIYの難度は低い。
 

stick ニコンクリーニングキットプロ付属スティックの先端角度は約20°、これを参考にすると図のようになる。太さ:先端:斜面=6:1:14 。他のサイズは同じ寸法比で作ればよい。
 先端がマイナス形なのはおそらくペーパーが滑らずに巻きやすく、作業中にズレが生じにくい等の理由によるもの。従い寸法は多少アバウトでも実用上問題ない。

 

pa190335201016 写真は自作のクリーニングスティック。細いものは顕微鏡レンズ用。洗浄する光学面のサイズに応じて使い分ける。

 材料は竹か、ヒノキ。箸や菜ばし、竹串などを加工する。先細りするテーパー部分を避けストレートの部分を使う。
 丸棒より、楕円や角ばった物の方がペーパーを巻きやすいので、丸い場合は面取り加工してしまうと良い。

 

 洗浄作業ではこのスティックを中心から外側へ、円を描くよう操作することが奨励されている。溶剤をたっぷり使うと、汚れを中心から外側へ押し広げていくイメージ、少量の場合はペーパーに汚れを吸着するようなイメージになる。後者の場合、スティックの向きを進行方向に対し一定にした方が良いのでは?そう思って何度かテストしてみたが大差なかった。

 

クリーニングの工程

 クリーニングの工程は次のように考えられる。

1.前処理(ブロワー、ペッタン棒などで)
2.予洗い(汚れがひどい場合)
3.洗い
4.仕上げ(拭き上げ)

 最初にブロワーやペッタン棒で大まかなゴミを取り、次に繊維隙間が広いCAR用不織布+溶剤or界面活性剤で予洗いする。
 3の洗いでは汚れに応じて溶剤と界面活性剤を使い分ける。溶剤は揮発速度が速過ぎないもの(EE-3310や無水エタノール)が適している。
 仕上げはシルボン紙(鯉の口)+EE-6301の調整液で拭くう(後述)。

 界面活性剤は溶剤だけで汚れが落ちないとき、ごく少量ペーパーに付けて使う。

 

pa200336201016 写真は竹串にゲル状シートを刺して作ったペッタン棒。市販品もあるが、材料は100均で揃う。仕上げ後もブロワでは飛ばないゴミが付いてしまった場合の除去に役立つ。
 商品によって粘着力が異なり、耐震用は粘着が強いので注意が要る。「防振用」と書かれたもの、硬度が高いものが比較的安全。

 

 

仕上げのコツ

 仕上がりを左右する重要な工程。中心から円を描くように・・という作業になるが明確な手順や基準がない。そこでニコンの動画を参考に次の基準を考案してみた。

1.円の軌跡:半分オーバーラップさせて5周以内
2.スティックの移動速度:毎秒1~2cm
3.溶剤の尾の長さ:1~2cm

 言うまでもなく、ペーパーは必ず1回ごとに捨てて新しいものを使う。
 1の項目を満足するために光学面の大きさに応じた鯉の口(光学面サイズ/5 以上のもの)を用意する必要がある。

rute 図は8×6の鯉の口を半分オーバーラップで5周させた場合の軌跡。フルサイズ(36×24)の領域をカバーする。
 ペーパーを大きくして溶剤を増やし、短い軌跡を描いた方が(出来るだけ3周以内で)綺麗に拭けそうなことが想像つく。図を見てこれ以上の軌跡は長いと判断されるので5周を上限とした。

 

 2の移動速度は速いほど効率よいが、アマチュアが手作業で確実にオーバーラップさせた軌跡を描くために、落ち着いて作業できる速度を検討して決めた。
 3の尾の長さとは溶剤を塗布したペーパーを動かしたとき後ろに出る溶剤の長さのこと。長すぎると空気中の異物を付着やすく、短すぎると溶剤切れの判別しにくいことから、1~2cmと決めた。

 2,3については温度や溶剤の種類によって左右されるため本番アタック前にテストが必要。具体的には次のように調整する。

1.尾が長すぎる。水滴が残る
 溶剤の揮発が遅すぎるか、溶剤の量が多い。
2.尾が短すぎる
 溶剤の揮発が速すぎるか、溶剤の量が少ない。
3.途中で尾が切れる。
 ペーパーの巻き数が足りない。

 溶剤の揮発速度はEE-6310に無水アルコールを混ぜて調整する。毎回作るのは面倒なので、混合比1:1の溶液を事前に作っておき、原液と合わせて3種類を使い分けるとよい。ゆっくり動かせば、無水アルコールでも尾を小さく出来る。
 清掃後、「ハァ~」と息を吹きかると拭きムラが見える。曇ったところをCAR用の不織布か脱脂綿で拭くと、これがある程度取れるので、最後に仕上げに行う場合がある。
 

 撥水コートされたプロテクターは溶剤が水玉になってしまう。汚れが落ちにくく、洗浄も難度が高い。最初から撥水コートの商品に手を出さないのが無難。

 

 

クリーニング液の小分け

 アルコールは吸湿するのでクリーニングのたびにボトルの蓋を開閉することは避けたい。当然、一度ボトルから出したクリーニング液を戻すのはNG。ハンドラップという道具があるが、たまにしか清掃しないアマチュアにとってこの道具は液の無駄が多い。

 ここは小さな容器に小分けして使うのが良い。写真は100均の化粧水保存容器のキャップ裏側に発泡PEシートを貼り付けて密封改造したもの。こうしておくと小分けしても揮発せずに保存できる。

※発泡PEシートは1~2mmのものが包装緩衝材で良く使われている。薄いレジャーシートや100均のアルミ蒸着断熱シートでもよい(アルミ面を外側にする)。

 

 

<参考購入先>
シルボン紙 レンズ清掃の必需品
無水エタノール
Formura G-510 純粋な界面活性剤。万能に使えます
クリーニングキット ペッタン棒もあります
EE-6310 Net Cafe Photoさんから購入できます

<関連記事>
ミジンコの永久プレパラートを作る
洗剤の選び方と使い方 G-510について紹介しています

ご注意:当記事を参考に実施した結果について当方は如何なる責任も負いません。実施する場合はあくまで自己責任でお願いします。

 

レンズ清掃用品の選び方」への2件のフィードバック

  1. レンズファン

    興味深い記事ありがとうございます。

    私の経験として、トレシーに代表される超極細繊維を使ったクリーニングクロスはダメです。なぜならば、クリーニングクロスの保管環境が問題になります。たとえば、むき出しのままでは、ホコリが付着します。また定期的に洗い、使わない時には袋に入れて保管をしなければなりません。ここまでする人は居ないかもです。ついその辺に放置なんて…
    よって、使い捨てのクリーニングペーパーが良いです。また、普段使わない時には、ビニール袋に入れてホコリの付着を防いでます。

    次にクリーニング液として、無水アルコールは乾燥が速く拭きむらが出て難易度が高いです。一方、オリンパスE-3300は程よい乾燥で無水アルコールより上手に拭けます。

    今は、E-3310と使い捨てのペーパーでレンズ清掃をしています。

    返信
    1. 創造の館 管理人 投稿作成者

      レンズファンさん、当記事をご覧くださいましてありがとうございます。
      EE-3310はたいへん使用感がよい洗浄液と思います。ただシリコン系のため、密閉に近い環境では曇りの原因になることがあるようです。
      外側に出る部品、たとえばプロテクトフィルタの清掃に使う分には問題ないでしょう。あくまで人から聞いた話なので、機会があれば検証してみたいと思っています。

      返信

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