麺が滑らない・つかみやすい箸の選び方~理想の箸を考える

 きしめんが滑り落ちて食べにくい・・そんな経験はないだろうか。箸は最も日常的な道具の一つで、その形は昔からほとんど変わっていない。箸の理想を考え、最適形状を求め、それを実際に作ってみた。

 

100年?進歩のない箸の形状

 きしめんを割り箸以外で食べると滑って食べにくい。力を入れても隙間があって滑り落ちてしまう。これは箸の形に問題があるため。

割り箸できしめんを持ち上げた様子

 箸のデザインが細い棒切れから改善が進まないのはなぜだろう。それは、ほとんどの人が「現状で十分」と考えている為ではないか。しかしその現状に不満を感じることがある。先に書いた「きしめん」を食べる時がその一つ。

 箸の選び方について調べると、手の大きさに合った長さを与える指針しか見当たらない。実際は長さの他に、耐久性やハンドリングといった検討項目があるはずだ。

 

※:親指と人差し指を直角に開き、それぞれ指の先端を結んだ距離の1.5倍が目安といわれる。大人の場合、大体21cmになる。

 

マイ箸を持つ弊害

 お父さんの箸、お母さんの箸、息子の箸、娘の箸、など、家族でマイ箸を使う家庭があるかもしれない。小さなお子さんのいる家庭では、学校に持っていくための箸もある。このように個人別の箸があると問題が起きる。

 例えば、学校に通う子供2人含めた4人家族では、6膳12本の箸が必要になり、毎日皆がこの中から自分のペアを見つけなければならない。食事を前に誰かがモタモタやっていると、「早く取れよ!」とイライラする。

 きしめんがストレス無く食べられて、皆がストレスなく暮らすには、どういう箸にしたらよいのか。以下、これを考えていく。

 

箸の特性

 最初に箸の特性を整理してみよう。

 

材料

 高級品では黒檀などの堅木や檜が多く、安価な商品は竹やアスペン、白樺で作られている。アスペンは使い捨ての割り箸で広く使われる。業務用はFRP(ガラス繊維入りの樹脂製)が主流になっている。檜は柔らかく先端が折れやすいことから実用に向かない。

 

形状・デザイン

 太さが全長で一定のストレートと、先端にかけてテーパーやカーブを付けたものがある。断面形状は四角形、丸、八角形などいろいろだ。

 持ちやすさは指で持つ部分の太さと長さで決まる。普通の大人は太さ6mm前後、長さ21cmが使いやすい。指の細い子供は5mmが頂度良いかもしれない。7mmを超えると誰にとっても太く感じるだろう。

 

いろいろな箸 写真は我が家にある箸を並べてみたところ。いろいろな種類、形状のものがある。塗装したものは歯に触れる先端から剥がれていくことがわかる。

 

 複数の住人が暮らす家庭では、各人がマイ箸を持たず、同じもので統一することを勧めたい。学校用は学校用で、兄弟別々のものにせず共通にする。こうすることで上述した運用上の問題を回避できる。毎朝、学校用の箸を用意するお母さんも、箸を使う他の家族も、ずいぶん楽になるはずだ。

 

仕上げ

 無塗装、ウレタン塗装、漆塗りなどがある。箸は酷使されるため塗装の剥げが避けられず、剥げると見た目が見苦しい。そのまま使い続けるか、破棄するしかない。仕上げは無塗装がベストであり、同じ風合い長く保つことが出来る。

毎日食洗器で洗っている無塗装の竹の箸と、新品の竹の箸

 写真は100膳入りで売られている安価な使い捨ての割り箸(竹の無塗装品)。一番右の2本が使い古し、その隣の白っぽいのが新品。

 竹の無塗装品はとにかく丈夫で、毎日食洗器で洗いながらもう1年以上になる。変わった点といえば色が褐色になったくらい。

 箸の材質は無塗装の竹がベストである。

 

 

滑り止め

 食べ物を持ち上げる先端部には、持ち上げる方向と直角方向の「エッジ」が必要。これが不十分だと「きしめん」などの滑りやすい素材が掴めない。このエッジ効果は四角形の面取り無しが最も優れる(後述)。

樹脂製箸の滑り止め加工部分を拡大したところ樹脂製の箸では写真のように先端だけ凹凸を付けることで滑り止めの効果を得たものが多い。

 

 

先端角度

 全体をテーパー、またはストレートに作られた箸では写真のように隙間が出来る。テーパーの角度は中心線から片側1°未満がほとんど。きしめんなどが滑って掴めないとき、いくら力をこめても改善しないのは隙間があって麺に力が伝わらない為。 

箸を持って先端を合わせた部分の拡大 

 


 

箸のエッジ効果を調べる

 

 箸のエッジ効果が低いと掴んだものが滑りやすくなる。エッジ効果の方向には箸の長手方向と、箸に対して垂直方向があるが、食事をする時は後者が重要になる。

 食事をするとき、箸は大抵45°~0°(水平)までの角度で使われる。麺を持ち上げるときも水平だし、大きくて持ち上げにくいものは2本を水平にして橋渡しするなど人は無意識に工夫している。

 

 市販の箸を見ると、円周方向に溝を付けて長手方向のエッジを強くした商品が見られる。この方向のエッジが効くのは箸を垂直に近い状態で使った場合のみ。役に立つ機会はほとんどない。

 箸に対し直角方向のエッジは先端の断面形状で異なるはずだが、この形状とエッジ効果の関係を定量的に調べた資料が見当たらない。そこで、きしめんを使ってこれを求めてみた。

 きしめんはごく普通のもの(乾麺の状態で断面5.00×1.15mm)を使用。これをレシピ通り茹でたものを26cmの長さに切って使う。

 

きしめんの裏に箸を入れて持ち上げる実験の様子

 ステンレスのバットに1cmピッチで目盛りを振り、水を入れ26cmに切ったきしめんを浮かべる。写真のようにきしめんの裏に箸を入れて麺の両端が完全に水から離れるまで持ち上げる。

 持ち上げる位置を中央(麺の重心点)から端の方へ1cmずつずらしていき、滑り落ちずに持ち上がる限界の距離を求めて次の式で許容偏心率を計算する。この数字が高いほどエッジ効果が高く、滑らずに麺を持ち上げる能力が高いことを示す。

 許容偏心率=100 × 限界距離/麺の全長の半分 (%)    (1)

 
 実験結果は次の通り。

表1.きしめん持ち上げにおける許容偏心率(%)

No 先端の断面形状(仕上げ等) 許容偏心率(%) 評価
1 A (ごく普通の割り箸) 38~46
2 B (竹の割り箸) 23 △ 
3 A’ (樹脂製滑り止め付) 23 △ 
4 A’ 四角(樹脂製滑り止めなし) 15 × 
5 A’ (木製ウレタン塗装) 15 × 
6 B’ (No2を改造 写真参照) 46~54
7 A (No2を改造 写真参照) 38~46 ○ 

 箸先端の断面形状 先端部分を加工した箸

 

 図は先端の断面形状。アルファベットは表の先端形状に対応する。写真はNo6,7の実験に使ったB’とA。B’の溝はリューターを使って加工したが、綺麗に作るには専用工具と冶具が必要。

 B’はなんと麺全長の1/4近いところを持ち上げても滑り落ちない。この形はBの円周上を中心点に半円の溝を入れてたもので、エッジ角度がAより鋭角なことがわかる。これにより高いエッジ効果が得られた結果と推察する。

 AはB’に次ぐ性能で、竹と滑り止め付きの樹脂性がこれに続き、塗装されて表面がつるつるのものは最も劣る結果となった。

 以上では箸に対し垂直方向のエッジだけ調べた。「長手方向のエッジは必要ないの?」そう思うかもしれない。実はAやB’のような縦のエッジは食物など柔らかいものに食込んで長手方向のエッジ効果を同時に得る。従い、箸の先端形状はAまたはB’がベストで、他の小細工は必要ないと考えられる。

 


 

最適な先端角度を考える

 

 食べ物をしっかり挟めないと持ち上げることが出来ない。きしめんが滑り落ちるとき箸に力をこめても保持できないのは、隙間がある為だと先に書いた。そこで箸の先端を合わせたとき、先端の隙間がゼロになるデザインを図式的に求めた。

先端を合わせたとき隙間をゼロにできる箸の寸法形状

図1 先端を合わせたとき隙間をゼロにできる箸の寸法形状

 

 箸を正しく持つと先端から100mmのところで約10mm開く。このとき先端が4°で面取りされていると隙間がゼロになる。全体の形状がストレートのとき面取部を25mm付けられる。面取り部を長くしたり、箸にテーパーを付けると先が尖りすぎてしまう。
 先端の断面形状は表1で示したAタイプを採用。先端以外も転がらない四角形とし、角にRをとって持ちやすくした。

実際に作った先端を合わせたとき隙間がゼロになる箸

 写真は竹の割り箸を使って上の図面通りのものを実際に作ってみたもの。シンプルで美しい。精密ピンセットの代わりにもできる。「これぞ究極!」と思いきやそうでもない。

 これは確かにエッジ効果に頼らなくてもきしめんを持ち上げられる。しかし隙間ゼロになるのは挟む物が無い場合の話。実際は挟む大きさに比例して角度が開いていくので、大きいものは逆に滑りやすくなる。

 

 手に持った箸を平行になるよう開くとその間隔は約20mm。4°に面取りした箸を平行に開くと4+4=8°の結構な開きが手来てしまう。これで20mmの物を滑らず保持するのは難しそうだ。ちなみに、20mmは人間が食べ物を食べるとき自然に開く口の大きさとほぼ一致するので、これ以上開いたケースを考える必要はあまりない。箸という道具は実に良く出来ている。

 箸を平行に開いたとき、挟んだモノと直角になる先端角度はストレート(ゼロ度)。閉じたとき4°だったから、両者の中間をとって2°が最適値の目安になるだろう。きしめんなど細いものを優先すると、3°がベストといえそうだ。3°で作図したものを次に示す。

先端角度を3°にした箸の寸法形状

図2 先端角度を3°にした箸の寸法形状

 

 3°で面取りするとエッジのある面取り部の最大隙間が0.8mmになって厚み1mm程度のきしめんにちょうど対応できる。和食を主体に考えた箸のベストな設計の一つがこれだ。

 


 

まとめ

 結局箸の素材形状は次の条件を満たすものが良い。

(1)素材・表面仕上げ
 竹製の無塗装

(2)断面形状・デザイン
 □6mm前後のストレート、長さ21cm(大人用で)

(3)先端形状
 先端角度2~3°。先端サイズ 2~2.5mm
 断面形状は上記のAまたはB’。Aが作りやすい。

 

鰹節削りを使って箸を作っている様子

 形が決まったら早速製作。写真はその候補の一つ、TOPVALUEの双生割箸だが古い商品で同じものが無い。無塗装品を入手して欲しい。

 数は人数分の2倍用意してマイ箸を作らない。これが運用で問題を起こさないためのポイントになる。

 

 面取り加工はカンナのようなものが必要。刃物側を固定しモノを動かす形にしないと綺麗に出来ない。写真は鰹節削り器を代用した例だがタマネギスライサーも工夫次第で使える。

 刃から100mm後ろに高さ3.5mmの棒を置き、ここに箸を乗せて数回往復するだけで所定の面取りができる。1本の加工に10秒かからない。ついでに後ろの耳を削り落とすと見た目が綺麗になる。

 

<参考購入先>
竹の割り箸
スライサー タマネギ用の大型スライサーでも代用できます
竹の菜箸 無塗装の竹の菜箸は食洗器で洗いながらずっと長く使えます。

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