使えない中華製ラべリアマイクを改造して音質を良くする

アマゾンでラべリアマイクとして使える中華製品を物色していたら割とマシな商品が見つかった。しかし致命的な欠点がある。そこでDIYで改善を試みた。

Ashuneruコンデンサーマイク外観

 問題の中華製マイク Ashuneru XO-V001。Made in Chinaと書かれているだけで製造元不明。感度は -25dBという、とんでもない代物。このスペックのマイクは世間を見渡してもあまりない。感度だけ見ればオーディオテクニカのAT5040(30万円オーバー!)と同じスペック。

 ちなみに感度が高いからといってノイズが少ないとは限らない。この性能は口径に比例し[1]本機はそれなり。

 一応、クリップが付属するが、ラべリアマイクとして使うには本体が大きい。

 実際使ってみると、音がまあまあいい。シャリシャリ、低音スカスカといった、よくある欠点が見当たらない。低域がフラットに下まで伸びていてかなり低い音からキッチリ記録される。会議やセミナーに最適と称して売られているが、この低域特性からしてそういう用途に向くとは思えない。

 マイクの音質は、ダイヤフラムの面積に比例する傾向がある。分解して解ったことだが、このマイクの感度の秘密は複数のマイクカプセルを使った構成にあるようだ。

 

欠点

 ただこのマイクには欠点がいくつかある。

1.誘導ノイズが乗る
2.感度が高すぎて機材側のアンプが飽和しやすい
3.かなりの低周波から記録される

 1は人体にマイクを近づけると出る。本体に触れば「ブー」という盛大な音。これは使えない。
 2はスマホなどの録音レベル調整が十分できない機器で問題になる。入力が大きすぎて飽和してしまうのだ。
 3は飽和の原因になっている。大抵のマイクは100Hzから下がなだらかに減衰するが、これは計測用マイクのように下の方までフラットのようである。

 2,3は録音機材で対処できる。一般用途では使いにくさに繋がる欠点だが、ピュアな録音マイクとしてみれば得難い利点に変わる。

 問題は1。本来はこの時点でゴミ箱行きだが、音がいいだけに惜しい。どうやら、ケースが電気的に浮いている模様。そこで今回は、ケースに対してアースを追加する改造をしてみた。

 

改造の様子

 

Ashuneruコンデンサーマイクを分解したところ

 分解したところ。全部ネジ止めでできていて簡単に分解できる。見ると6mmのマイクカプセルが2個入ってる。ステレオかと思ったらそうでもない。テスターであたってみると、マイク同士がコモンでグランド同士ショートしている。こういう設計ってアリなのか?

マイクカプセル拡大

 マイクカプセルを拡大した写真。これは最初の写真と別の個体だが配線の色が違う。結構いい加減。サイズがWM-61Aと共通の模様。持ってる人は交換すると面白いかもしれない。

 分解の結果からすると、思った通りケースがアースされていない。そこでアースをとることにした。

アース電極を設置したところ

 マイクのマイナス端子に電線を付けて、頂部に穴を空けて線を外に出し、銅板を接続する。ケースを被せると、銅板とケースが接触してアースに落ちるというわけ。先端のヒレヒレは電気接点となるエッジを増やすための細工。

 最後にケースを被せる。強めに押し込んでネジを入れる形が良い。スプリングの圧が足りない場合は台所用の金属たわしをちょっぴりかませる。接触不安定な場合はケース奥接触部の塗装被膜をドライバーなどで擦り落とす。

 

スプリングワッシャの組み立て

 ちょっと難しいヒンジ部分の組立。スプリングワッシャがズレないよう少しだけネジを入れておくのがコツ。ヒンジが嵌ったらネジを取り、ケースを被せて反対側からネジを入れて完成。

 

 

改造結果

 

誘導ノイズが乗らないかテストしているところ

 組み立て後のテスト風景。ケースに触れても誘導ノイズは全く乗らない。これは使える。亜鉛合金のケースが立派な保護兼シールドになっている。構造が堅牢で無造作に扱っても壊れそうにない。このマイクの高感度かつ、低周波から録れる特性を生かして使っていきたい。

 

マイクの感度を比較した解析グラフ

 1kHzサイン波を同じ録音レベルで録った結果。青は定番のソニーECM-PC60(公称-38dB)。これとの差が13dBあるから、本機の感度は-38+13=-25、つまり能書き通り。自己雑音はECM-PC60より大きいが、RODEのラべリアマイク[1]などと比べるとほとんど同レベル。低歪で録れるDレンジは実測50dB程度、ECM-PC60と大差ない。

 

オーディオテクニカ楽器用プロ用マイクとの周波数特性の比較

 周波数特性。スピーカーからホワイトノイズを出して近接録音。青はオーディオテクニカのプロ用マイクATM14a(4.9万円)。山谷はスピーカーの特性なので相対比較になる。妙なクセは見られない。高域の伸びは控えめ。特性はほとんど同じに見えるが自分の声を録音して聞いてみると結構違う。ここにマイク選びの難しさがある。

ステレオ構成にした様子

 気に入ったので2本作ってステレオ録音できるようにした。RODEのTRRS-TRS変換アダプターに、モノーステレオのLR分岐変換ケーブル(Hosa YMM-261)を使用。

 

 

マイク選びの難しさ

 マイク選びはくじ引きに似ている。買ってみるまでわからない。同じ音質のマイクは2つとないし、性能が良いものや高価なものが良いとは限らない。実際に録音した結果を耳で聞いてみて、主観で評価されているようだ。

 評価の定まった定番マイクがあれば、それを買うのが無難。シュアーSM57のように長年選ばれてきたマイクにはそれなりの理由がある。ラべリアマイクの世界ではこういう定番をあまり聞かないので、自分でいろいろ買ってみるしかない。

 そんなわけで過去いろいろ買ってきたが、納得いくものが見つからなかった。その中で本機は、結構使えるなと思った一品。ソニーECM-PC60よりはずっといい音。

 このマイクを使って収録した動画をご紹介。

 

参考:ECM-PC60について

 今回比較に使ったソニーECM-PC60の正面音質は及第点、ラべリアマイクとしては落第点。作品制作に使えるものではない。これはあくまでチャットや実況用。カプセルが金属で出来ていて誘導ノイズが乗らない。きちんとアースされている模様。マイクカプセルの自己雑音はこのクラスの中で小さい。

 

<参考購入先>
Ashuneru XO-V001 アース改造をして使えばそこそこ使えるマイクです

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