皮革を長持ちさせる

 皮革商品は使ううちに皮脂や汗で汚れていく。水洗いできず、手入れは乾拭きかオイル、クリーム(乳化オイル)を塗るだけ。汗や皮脂で汚れた上からオイルを塗れば汚れを革の奥に閉じ込めてしまう。私はこのことについて、ずっと疑問に思ってきた。
 このような手入れをした場合、使っているうちは問題ないが、放置するとカビだらけになる。洗えないので破棄。皮革商品のほとんどが、このパターンで消費されているようだ。「皮革に栄養補給が必要」という話もピンとこない。「カビに栄養補給する」という話ならわかる。

 

 長持ちする皮革処理の一つにオイルレザーがある。水濡れに強く、簡単な手入で済み、使ううちに素晴らしいエイジングの風合いを得るという。オイルレザーで作られた皮革商品は、親から子へ受け継いで使っていけるらしい。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 写真はTIDING/潮牛皮具(中国)の鞄。厚革オイルレザーで耐久性は抜群に高い。水濡れも問題なく屋外で普通に使える。

 優れた特性をもつオイルレザーだが、商品が少ない。その理由の一つに、長持ちすると商品が売れない(儲からない)という事情があるのだろう。売る側からすれば出来るだけ早くカビて破棄されるのが「いい商品」。
 市販の皮革商品をオイルレザーに改質できれば、そんな商品の特性を改善し、寿命を大幅に延ばせるに違いない。

 

 

オイルレザーとは何か

 オイルレザーの製法には次の3つがあるという。

(1)油だけで鞣(なめ)す
(2)なめしの工程でオイルを加える
(3)なめした後でオイルを加える

(1)はセーム革[1]や姫路白なめし革[2]になっている。オイルはタラ肝油、菜種油などの不飽和脂肪酸を多く含むオイルが使われる。
 (2)はタンニンなめしでオイルレザーを作り高品質を売りにする事業者をみかけるが、(3)と大差ないと私は思う。(3)では界面活性剤を必要としないので、より高い品質が得られる可能性がある。

 

革を育てる(エイジング)とは何か

 ヌメ革を育て、エイジングに成功したという人はメンテナンスでオイルを塗りこんでオイルレザーに近いものを作ったと推察される。手垢による汚れはエイジングと見分けがつかないので変色の半分は汚れの可能性がある。最初にオイルを塗り込んでおいた方が、皮脂や汗で汚しながら育てるより品質の良いものが出来るはず。

 

改質油のスクリーニング

 後からオイルを加えるだけで「オイルレザー」が作れる。といってもオイルにはいろいろな種類がある。何を染み込ませたら、耐水・耐汚染性に優れた皮革になるのか。オイルレザーの製造工程では動物油、鉱物油(流動パラフィン)などが使われているようだが詳細はわかならい。そこでスクリーニングをしてみた。

pb211245231116 含浸させた油が変質・酸敗してカビの原因になっては本末転倒。匂いが付くのも好ましくない。そこ無色無臭、かつ化学的に安定で酸敗蒸発しにくいものを候補に選んだ。
 他、市販品の代表としてコロンブスの「ミンクオイル」のほか、不飽和脂肪酸を多く含む亜麻仁油とオリーブ油、自然塗料(エシャクラフト)を加えた。また、パラフィンを含浸させた「ブライドルレザー」も作ってみた。

 自然塗料を塗る前に「との粉」で前処理すると食洗機の使用に耐える水密性の高い被膜が作れた。これを皮革でもテストする。

 

 

pb211255231116 写真は短冊に切ったセーム革にオイルを飽和含浸させ、メチレンブルーの水溶液を滴下した直後の様子。
 左からPAO(ポリαオレフィン)、フッ素オイル(Rational001)、スクワラン(SQ)、ワセリン、ミンクオイル(コロンブス)、流動パラフィン(ベビーオイル)、固形パラフィンを加熱含浸させて作ったブラドルレザー。フッ素オイルだけ色の変化が起こらない。

 

 

pb211265231116 3時間後の様子。スクワラン、ミンクオイル、流動パラフィンは染みてしまったが、他はまだ弾いている。特にフッ素オイル、ワセリン、パラフィンが優秀。但し、フッ素オイルは一度水洗いすると他の液体オイルと似たような結果になってしまう。

 

pb231281231116 一度水洗いし乾燥させ、引っ張ってみた。写真はその「裏面」。フッ素オイルとパラフィンは裏まで浸透していない。ワセリンも浸透が少ない。
 パラフィン処理したブライドルレザーは伸縮性が失われて簡単にちぎれてしまった。

 

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 写真は左からオリーブオイル、亜麻仁油、自然塗料(エシャクラフトオイル)、との粉下地処理自然塗料(3時間後)。自然塗料で処理したものは樹脂材料のような弾力がある。

 オリーブオイルが皮革の保護に使われているのを見かけるが、実態は変色・軟化させるだけ。保護効果はほとんど期待できない。

 

 

以上の実験結果をまとめた表を次に示す。

皮革改質油の評価

  PAO フッ素油 スクワラン ワセリン ミンクオイル 流動パラフィン 固形パラフィン オリーブオイル 亜麻仁油 自然塗料 との粉
+自然塗料
水はじき
耐汚染 × × × × ×
強度低下 ×
しなやかさ ×
色の変化 褐色 なし 褐色 褐色 褐色 褐色 褐色 褐色 少ない 弱褐色

 以上の結果から、「ワセリン」が改質オイルとして最も適していることがわかった。水や汚染に強い改質を求める場合は「との粉+自然塗料」が有効。ブライドルレザーよりいいかもしれない。時計の皮革バンドにはフッ素オイルが適合しそうだ。用途に応じて使い分けたい。

 

 

施工方法

 ワセリンはスポンジに塗布して塗ることで薄塗り出来る。厚塗りする場合は「手」を使うといい。ベタベタにしておき、一定時間経過後、余分を拭き取ることで色むらを防げる。浸透には数日かかるが、ドライヤーなど(出口温度の高いもの)で加熱することで時間を短く出来る。湯煎などでワセリン側を柔らかくするのはお勧めしない(浸透が早くなりムラの原因になりやすいため)。

pb221271231116 ワセリンを浸透させている様子。私はせっかちなのでヒートガンであぶる。塗り重ねるごとに色が濃くなる。後戻りできないので慎重に。

 塗るとツヤになるが浸透後はつや消しになる。浸透後の表面にツヤが出るのは皮革がワセリンで飽和してから。
 奥まった隅部など、塗れない場所があっても自然に浸透するので問題ない。時間と塗り重ねにより全体的に均一になる。

 

 

 

ワセリンの塗り重ね回数と色の変化

 皮革にワセリンを塗ると色が変わる。そこで栃木レザーのベルト(3mm厚)にずらしながらワセリン含浸を重ねてみた。一度の塗り厚は0.3~0.5mm。 写真は未処理を回塗り重ねた結果。左端部は未処理。塗り重ねた回数に比例して色が濃くなる。

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 写真左は水滴を滴下した直後、写真右は3時間後の様子。未処理(左端部)はすぐに水滴が染み込み、3時間後には完全に乾いている。一回塗るだけで十分な撥水効果が得られることから、必ずしも飽和するまでワセリンを染みこませる必要はないようだ。色の変化を見て、好みの回数で止める。

 色の変化は素材や表面処理によって違う。ヌメ革など未処理に近いものは変化が大きく、塗装や樹脂で表面処理されているものはほとんど変化しない。
 事前に目立たない場所でテストするか、うす塗りするといい。小面積に塗ったものは時間とともに拡散し目立たなくなる。

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 滅多に洗わないナイロンやポリエステルの生地(バッグやスーツケース)に塗るのも有効。強力な撥水効果と耐汚染性を獲得する。雨はもちろん、コーヒーやジュースがかかっても慌てる必要はまったくない。

 

 

ワセリン処理した革の手入れ

 オイルレザー同様、雨や汚染を気にせずに使える。積極的に持ち出そう。表面の汚れは水拭きもしくは洗剤で落とすことが可能。撥水が悪くなってきたと感じたらワセリンをうす塗りすればOK。ブラッシングや栄養補給など、定期的な手入れは必要ない。このような手入れにより、汚れが関与しない皮革本来のエイジングが進むだろう。
 洗剤は後に何も残らないG-510(10~20倍希釈液)がお勧め。スプレーして拭くだけで皮脂などの汚れを容易に除去でき水をかけながらすすぎ洗いもできる。

pb251294261116 写真はG-510を塗ってブラシで擦っている様子。水はじきしないのは界面活性剤の働きによるもの。ブラシ洗浄しらワセリンを薄く塗っておく。

 

 

 新品の皮革商品を買ったら皮脂や汗で汚れる前に速やかにワセリン処理をお勧めしたい。1回塗るだけでもかなり違う。水拭き程度ではワセリンの保護効果は失われない。ここがスプレータイプの汚染防止剤と大きく違うところ。
 塗りを前提に商品を買う場合は色の変化を計算に入れて薄めの色を選ぶといい。

 

<参考購入先>
オイルレザーの商品 選択肢が少ないです
潮牛皮具の鞄 作りはやや雑ですがお勧めできる商品です。重いので注意
Rational001 オイル処理で風合いを変えたくない人の選択肢。沢山欲しい人はご相談ください
Formura G-510 皮革の洗浄にも最適な洗剤です

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<参考文献>
セーム革 日本皮革産業連合会
姫路白なめし革 日本皮革技術協会

注意:ワセリンの施工は自己責任でお願いします。

 

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