防湿庫でレンズを保管するとバルサム切れする?~防湿庫の選び方

 カメラやレンズを風通しの悪い場所に置くとカビることある。では防湿庫に入れておけば万全だろうか。防湿庫には2種類あり、選び方を間違うと思わぬ弊害が出るかもしれない。

 

防湿庫の湿度設定は、いくつが妥当か

 カメラの保管湿度は30〜50%RHが奨励されているが、これは「相対湿度」の話。相対湿度は温度とセットで考えるものだが、このことを意識している人はあまりいない。

 「オートドライ」などの相対湿度を自動で一定に保つ防湿庫が市販されていて機材を多く持つ消費者に人気がある。このような防湿庫はクリーンルームなど温度一定の環境に置いた場合問題ないが、季節によって温度が大きく変動する一般家屋では温度に応じて逐次設定値を修正した方がよい。

 たとえば一般家屋の屋内に設置し、設定を1年中40%RHで放っておくと、室温5~30℃の変化で絶対湿度が 2.7g/m3~20.5g/m3 と約10倍も変動するうえ、冬場は過乾燥になってしまう。

 そこで例えば、夏場30%RH、冬場50%RHとすれば、絶対湿度は 3.4~9.1g/m33倍の変動に縮まり、カビを確実に防ぎつつ機器にもやさしい管理を実現できそうだ。冬場は博物館で見るような水を入れたコップが必要になるかもしれない。

 

バルサム切れ、潤滑油の枯れについて

 また、乾燥のさせ過ぎ(過乾燥)は悪いとされ、その理由が「潤滑油が乾くから」とする噂があるが、湿度と潤滑油の乾きとの間には何の関係もない。水分の過乾燥による悪影響は樹脂部品の変形収縮くらいである。

 「オートドライ」などの防湿庫で使われている乾燥剤はシリカゲルなどの吸着形が多い。この乾燥剤は、水分のほかに有機溶剤も吸着してしまう。これによってバルサム切れを促進するかもしれない

 シリカゲルは油分も吸着するので、潤滑油の枯れも促進するかもしれない。いずれにせよ、「乾燥させすぎると潤滑油が乾く」と言われるのは、シリカゲルのような吸着形乾燥剤を使ったときに起こる弊害をいうのだろう。

※:理屈上不利といえるだけで、実際の影響は未検証です。

バルサム切れの例 レンズの保管で起こる問題はカビだけではない。「バルサム切れ」という現象があり、これが起こるとレンズの価値はゼロに等しくなる。これはバルサムに含まれる有機溶剤が長い時間をかけて揮発することで起こるらしい。

 左は20年以上前に購入したトキナーAT-X240を覗いたところ。レンズ貼り合わせ面に異常がありバルサム切れが原因と見られる。

 

 

ドライボックスは水分を透過する

ドライボックス 「ドライボックス」と呼ばれる簡易保管ケースがある(写真左)。この乾燥剤には、シリカゲルや生石灰が使われている。

 

 

 樹脂製のドライボックスは僅かずつ水分を透過するので開閉しなくても乾燥剤が湿っていく。そのため、乾燥剤を定期的に取り替える必要があり長期保管に向かない。

 金属テープを貼れば防湿補強ができるが、長期保管ではトタンで出来た昔の衣装箱が良い。不乾性パテ(ネオシールB-3)で密封処理すれば完璧。

 

シリカゲルと生石灰の違い

 シリカゲルは即効性のため、ドライボックスに入れて開閉を繰り返すと、すぐに湿気を帯びてピンクになってしまう。量を増やしても過乾燥になるだけで、持ちについてはあまり伸びない。

 一方、生石灰(酸化カルシウム)は効果が穏やで、長期間の乾燥に向いている。入れすぎても過乾燥にならず、量を増やせばその分、持ちが伸びる。

 それと、シリカゲルは吸着形だが、生石灰は水分だけに反応するから、バルサム切れや、潤滑剤が枯れる心配をしなくて済む。

 

シリカゲルと生石灰の違いを検証する

乾燥剤を湿度計と一緒に袋に入れて密封した様子写真は新品の生石灰とシリカゲルを使って比較した様子。

 実験開始時の環境は23℃55%RH、この環境で吸湿量が等しくなるよう生石灰(ハクバ キングドライ)30g、シリカゲル(A)45gとしてジップロック(ビニール袋)に入れて密封。どちらも容積に対して明らかに多い量で実験。

 

 生石灰は3日かけて乾燥して30%RH程度で安定した。シリカゲルはわずか数時間で20%RHを下回り、一晩で写真のようにゼロ方向に針が振り切ってしてしまった。このことから、シリカゲルは入れすぎると過乾燥になることがわかる。

 次に、この袋を冷蔵庫に入れてみた。すると湿度計の針が上昇。加温すると下降した。このことから、乾燥剤は「絶対湿度」一定で乾燥することが判明した。これは、「相対湿度」一定で乾燥する防湿庫と対照的。乾燥剤の方が、機器にやさしい乾燥ができるかもしれない。

 

乾燥剤は生石灰がベスト

 以上のことからすると、カメラなどの光学機器の乾燥剤は、生石灰(酸化カルシウム)が適している。シリカゲルはドライフラワーなど強力な乾燥が必要な用途に適した乾燥剤だ。

 

 

ドライボックスは個別包装とセットで運用する

 ドライボックスは無駄に深いものが多く収納効率が悪い。開閉するたびにたくさんの空気が入れ替わるため乾燥剤の消耗がはやい。ここはやはり、厚手のビニール袋と乾燥剤(生石灰)を使った個別包装がいい。

 

カメラを生石灰と一緒にジップロックに入れた様子

 写真はツマミ付ジップロックに生石灰(ハクバ キングドライ)を入れた様子。コストは50円/個程度。

 ジップロックは厚み0.07のPEのため透湿度は7~8g/m2/day[1]、良い方ではない。長期保管ではジップロックで個別包装したものをさらにドライボックスに入れて二重防湿にする。

 

 

防湿庫はペルチェ式がお勧め

ペルチェ式防湿庫の例(IDEX DS-103M)

 機器が増えてくると防湿庫が便利。写真はIDEXのDS-103M。ペルチェ式。ペルチェ式は生石灰同様、水分を除くだけなのでバルサム切れの心配がない。湿度調整も電子制御で正確。

 機材を入れるときは「裸」が原則。中の気流は無いに等しいので、バッグやケースに入れたまま放り込むと乾燥不足の恐れがある。

 

 

乾燥剤の保管方法

乾燥剤をガラス瓶に移し替えて密封した様子 買い置きしておいたシリカゲルがいつのまにか全部ピンクに・・

そんな経験はないだろうか。最近の乾燥剤はビニールに入れて売られている。ビニールは少しずつ水分が透過するため、その状態で放置すると湿気を吸って全部ダメになる。

 乾燥剤を長期保存する場合は金属缶かガラスびんに入れる必要がある。さらに、キャップの隙間を不乾性パテ(ネオシールB-3)で密封しておくと何年ももつ。

 ※:昔、シリカゲルは鉄の缶に入れて売られていた。

 

 

<参考購入先>
トタンボックス 金属製ボックス。密封して使えば湿気を通さない究極のドライボックスになります
不乾性パテ(ネオシールB-3) 容器の完全密封に使う不乾性パテ
ハクバ キングドライ 生石灰の乾燥剤。レンズやカメラの保存に最適です
乾燥剤(シケナイ) 大量に必要な場合はこちら
防湿庫 大は小を兼ねるので出来る限り大型のものを。ペルチェ式がお勧めです

<関連記事>
シリカゲルを上手に再生して長期間保管する方法

<参考文献>
1.包装用シリカゲル乾燥剤