ヤマハNS-5000は失敗作か

 NS-5000は2016年7月に登場したヤマハのハイエンドスピーカー。廃れた感漂うHi-Fiオーディオの市場において、注目を集めた新商品。

 価格.comを見ると、発売から1年以上過ぎた2018年1月になってもレビューが1つもない。おそらく、あまり売れていないのだろう。なぜこんなことになってしまったのか。

 

出典:メーカーカタログ(2016)

 見た目が、かのNS-1000Mに似ている。これが注目される大きな理由。しかし似ているのは外観だけで、中身は別物。そのお値段は税込実売160万円。大抵の人がスルーしてしまう金額。

 

 

銘機 NS-1000M

 NS-1000Mが登場したのは1974年。このスピーカーは、一般消費者にとっても、ライバルメーカーにとっても、孤高に光り輝く存在だった(と、個人的には思っている)。

 当時のライバルメーカーは皆、このスピーカーを横目で見て似たようなサイズ、構成の商品を作っていた。ダイヤトーンDS-1000など、名前からして1000Mを意識して計画されたことが伺える。

 わが家のNS-1000M。もう手放してしまったが、今も愛好者は多くレストアも盛んにおこなわれている。

 ウーファーに貼ってあるものはパンチングメタルの鳴き止め(ブチル+ガラス)。

 

 

 単体カタログ(1982年)。価格は10,8000円だった。細かいウンチクが最も豊富に書かれた資料。

 

ヤマハ総合タログ(1995年)

 1995年のヤマハ総合カタログ。

 発売から20年が過ぎ、モニターの納入実績1000台以上とある。価格は119,000円。

 

 

NS-1000Mはどんな音だったか

 密閉型で、能率は90dB。ウーファーが重く、ベリリウムの中高域に比べスピード感に劣るという評価が多かった。スコーカーはハードドームの為、多少のキャラクターがあった。密閉型のため低音の伸びは控えめで、重低音は出なかった。

 私はこのスピーカーで、当時流行していたフュージョンやテクノポップを聴いていた。納入直後はアレ?な感じで少しがっかりだったが、鳴らし込むにつれて変わった。そして、「ロックやポップスなどのジャンルの音楽を、これほどゴキゲンに鳴らすスピーカーはない」そう感じていた。

 一方、管弦楽器の音は今一つであり、音量をあげてもオーケストラのスケール感が出ないことが不満だった。

 

NS-1000Mの価値は「M=MONITOR」にあり

 1970年代、オーディオファンは皆、JBL 4343などのスタジオモニターにあこがれた。

 この種のスピーカーは「スタジオモニターの音を自宅で出せる!」という期待から、無条件に「欲しい!」と思わせる魅力を放つ。モニターの音は鑑賞に向かないものが多いが、そんなことは関係なかった。

 1000Mを他の類似商品と別格にしていたのは、「モニター」を冠していたこと、そしてそれが名前だけでなく、実際にスウェーデンなどの放送局に採用されたことだった。

 同じ理由で、弟機のNS-10Mもよく売れた。スタジオではオーラトーン5C同様、チープな再生環境の音を確認する目的で使われた。

 1000Mがヨーロッパを中心に多く採用された理由に、当時のモニターのほとんどが管弦楽をターゲットに作られていて、ロックやポップスなどのモニターに使える製品があまり無かった事情があったという。

 

 モニターはただ単にMを付ければ出来るわけではない。モニターを称するからには、長期間メンテ部品を供給しなければならない。売れなくなったら新しい商品を出して「無かったことにする」わけにはいかない物だ。

 「長く愛用できる」これもモニターの商品価値を高めていた。

 

買いやすい値段だったNS-1000M

 1000Mは1本10万円程度で買えた。「あこがれのモニタースピーカーが、手の届く価格で買える!」買いやすかったことも、ヒットした大きな要因の一つだった。

 

1980年山水電気のカタログ

 1980年当時輸入代理店だった山水電気のカタログ。

 JBL4343 STUDIO MONITOR は当時最も人気の高いスピーカーだった。

 しかし、1978年頃56万円(1本)[3]だったのが、1980年頃には72万円に上昇。簡単に買える代物ではなかった。

 その後、4344、4345が登場してJBLの黄金時代を築いた。

 

 

NS-1000Mのその後

 1000X,2000,10000 などが80年代に作られた。どれも1000Mの系譜だが、1000Xからウーファーのコーンがプラスチック(カーボン)になり、モニターを表すMが付かなかった。こうなると、もう数ある量販品と同じ。

 1000Mより優れた音質、特性を持っていたはずなのに、人気はいま一つだったように記憶している。

 

NS-5000でスピーカーの技術は進歩したか

 ザイロンとかいう素材の使い方に一定の目途が立ったくらいか。この素材は釣り糸に使われていて紫外線で劣化する弱点が知られている。金属蒸着しているのは、その弱点をカバーするため。

 ソフトドームはフェノール樹脂を染み込ませた基材(布)を加熱成形してダンプ材を塗ったもの。音を出すのはダンプ材やフェノール樹脂であって、基材はあまり関係ない。たぶんケブラー(アラミド)でも変わらない。ここにあえてザイロンを使ったのは、B&Wと差別化するためか。

 ちなみに「生々しい」音声に得難い魅力があった三菱 2S-305(1958年) の振動板は、ウーファーもツイーターも「紙」だった。

 エッジは相変わらずのロール形、コーンは単なる円錐。このあたり、解析的に最適形状を求めたフォステクスのHR振動板やUDRエッジ&ダンパーに比べると技術的に遅れて見える。

 ちなみにフォステクスはこの技術を駆使したモニタースピーカーを作りNHKモニターに採用されている(2004年)。

※HR=Hyperbolic Paraboloidal(双曲放物面)、UDR=Up Down Roll

 ヘンテコな共鳴管やチャンバーも、B&Wを意識したように見える。ノーチラスと同じでは能がない。そこで閉塞管にして、なんとか答えを探し出したようだが、内部の吸音は吸音材がベストではないのか。

 

 結局ハイエンドにふさわしい音質に寄与する素材も技術も見当たらない。ザイロンの音速がベリリウムより速いというが、織物にしたソフトドームでもそうなのか。アラミドと吸音材を使って同等のものが1/10以下の価格で出来そうな気がする。

 「これって本当に合理的な設計なの?」「技術者の趣味じゃないの?」そう思えてならない。

 

ついに低能率スピーカーの仲間入り

 スピーカーの重要なスペックに能率(出力音圧レベル)がある。スピーカーの応答は、能率に比例する[4]

 1000Mの系統は90dBをキープしていたのに、NS-5000で88dBになってしまった。これは中高域を能率の低いソフトドームに変えた事と関係ありそうだ。

 

NS-5000の仕様表 出典:メーカーカタログ(2016)

 この能率でHi-Fiスピーカーの目標の一つ、コンサートホールの音圧(109dB)を再現するためには200W+200Wをブチ込まなければならない[1]。お高いアンプが必要なうえ、出てくる音は小音量では暗く、200Wも入れたら歪の多い音しか出ないだろう。

 低能率のスピーカーは、その中身がどれほど素晴らしくても、決していい音は出ないものだ。

 

<参考購入先>
フォステクスのモニタースピーカー 最近は新技術を積極的に取り入れて頑張ってます

<関連記事>
1.アンプの音などというものは存在しない~オーディオアンプの選び方
4.スピーカーの選び方~能率に注目した選び方のコツ

<参考文献>
2.NS-5000 スペシャルコンテンツ https://jp.yamaha.com/products/contents/audio_visual/ns-5000/index.html
3.オーディオの足跡 YAMAHA http://www.audio-heritage.jp/YAMAHA/