ホームセンターで亜鉛入り塗料が買える。これは元々、屋外に置いた金物の錆を防ぐものだが、プラスチックの劣化防止に驚異的な効果がある。今回はこれを詳しくご紹介したい。
亜鉛入り塗料の性質
亜鉛入り塗料とは、亜鉛の粉末を含む塗料のこと。ほとんど亜鉛だけの「亜鉛メッキ塗料」と、シルバー系の顔料を多く含んだジンクスプレーがある。亜鉛メッキ塗料はローバルが老舗。ホームセンターではジンクスプレーが入手しやすい。
プラスチックの劣化要因は紫外線。亜鉛は金属なので紫外線を通さない。これがプラスチックに保護に役立つ。しかしそれだけで終わらない。
亜鉛は次第に錆びて酸化亜鉛になる。鉄の防錆に使った場合はそこで寿命だが、プラスチックに対しては錆びても紫外線から保護してくれる。酸化亜鉛は、紫外線から肌を守る「UVローション」に配合されている紫外線散乱剤だ。
金属系塗料は他にもあるが、亜鉛は錆びても紫外線から保護する点で他の金属系塗料と違う。
亜鉛入り塗料の寿命
亜鉛塗装の耐用年数は、ローバルによると20年(海岸地帯)~100年(田園地帯)[1]。これはフッ素系塗料をはるかに上回る。しかも錆止め効果の話だから、酸化亜鉛になってからも効果が続くプラスチックの場合はさらに伸びることが期待できる。
なぜこんなに長いのか。その理由は、亜鉛だけが持つある特別な性質にある。
普通の塗料はバインダー(結合剤)で寿命が決まっている。バインダーは有機材料のため紫外線で劣化し、そこで寿命を迎える。これはフッ素系塗料でも同じ。金属系塗料も同じように、バインダーが劣化すれば含まれている金属共々剥がれ落ちてしまう。
亜鉛入り塗料の場合はバインダーが消えてなくなっても金属亜鉛が酸化結合し塗膜として残る。つまり金属亜鉛メッキと同じものになる。これが亜鉛塗装だけが特別寿命が長い理由。
亜鉛メッキ塗装は、プラスチック保護のために作られた理想的な塗料ではないだろうか。
予備実験
亜鉛メッキ塗料がプラスチックやゴムの保護に効果があるのか。それを確かめるためアメゴム(無着色天然ゴム)を使って予備実験をしてみた。
写真はアメゴムを使った簡易耐候実験の様子。左のように縛った状態で屋外の日当たりのよい場所に晒す。ごく短期間で紫外線やオゾンに対する保護の「見込み」を知ることができる。
右は2Week後、縛りを解いたときの様子。両者は明らかに異なる。亜鉛めっき塗料を塗ったほうは少しの永久変形の他異常は見られない。未対策のものはひび割れと強い永久変形が見られる。
ビニールに塗装して透かしてみると完全に光を遮るには相当厚い皮膜が必要なことがわかる。スプレー塗装程度の薄い皮膜でどの程度の効果があるか、今後検証を続けていきたい。
施工例
施工は簡単。プラスチックの部分にジンク塗料を塗ったりスプレーするだけ。厚塗りしても塗りムラが目立たない。施工直後はシルバーの金属光沢だが、時間が経つと落ち着いたグレーになる。途中汚く見える期間があるが心配ない。
原液のまま使うのがポイントで希釈はほとんどできない。揮発した溶剤成分を補うくらい。希釈しすぎるとかえってうまく塗れない。広範囲のうす塗りはスプレー缶のほうが便利。以下施工例。
ベランダの手すり
ベランダ手すり、カーポートなど造作部材はモデルチェンジのサイクルが短い。品番が廃止されてから破損すると思わぬ出費になることも。使われているプラスチックの耐用年数は15~30年。亜鉛めっき塗装でこの部分の寿命を本体と同等まで引き上げる。
ベランダのシート防水
ベランダのシート防水(塩化ビニール)に施工。これで将来の張替えは不要。劣化しやすいベランダスリッパ(EVA)にも塗装できる。
サッシの樹脂部
サッシのプラスチック部品は複雑なのでマスキングで範囲を限定し一括塗装。
右の排水弁は外して塗装できる。痛みやすい部分なので外すとき破損したら寿命。消耗品[1]なので交換も可能。
ゴム部品
ガラスモールやドアストッパーなどのゴム部分にも濡れるが、伸縮する部分は塗膜が追従せず剥がれやすい。ここは不乾性パテ[3]か、自然塗料の方が良い[4]。
水栓用品
水栓用品もこれでバッチリ。もう使い捨ての消耗品ではない。
屋外コンセント、防水カバー
屋外のエアーポンプはカバーをすると長持ちする。100均の整理BOX(PP製)の内側にテープを貼ってカバーを自作。風で飛ばないようステンレスの針金で固定。屋外コンセントも常に日のあたる場所はこれで安心。
物干し用品
屋内用のパラソルハンガーも屋外OKに。省スペースで使い勝手のよいハンガーの完成[1]。
住宅を建てるときは外壁や屋根を同色系のガルバで統一し、コーキング目地ごとローバルで全塗装してしまえば100年ノーメンテも夢ではなさそうだ。
カーポート
カーポートはプラスチックの隅部品とドレインパイプがネックなのでここに施工。カーポートは普通コンクリート土間に支柱を埋め込むためリプレースになると大工事だがこれで住宅の寿命と同じくらい持つだろう。
エンビパイプの裏はスプレーが届かないので筆であらかじめ塗っておく。
TVアンテナ、混合器
カ バーやステー、ポールなどに施工。これで厳しい環境にあるアンテナの寿命も建物と同じに。アンテナ本体(アルミ)は塗らない。
施工上の注意点
亜鉛入り塗料(ローバル)を塗ると、乾燥後の塗膜はとても柔らかく剥がれやすい。これをしばらく屋外に置くと、バインダーが枯れて金属結合が進み、固体亜鉛とほぼ同じになる。カチンコチンでびくともしない。分解が必要な部分の隙間に入り込むと、分解不能になることがあるので注意。
ポリプロピレンやポリエチレンの表面に塗ったものは剥がれやすい。ポリプロピレンに関しては事前にプライマーを塗っておくことで改善できる。ポリエチレンについては今のところいい方法が無い。
入り込むと都合が悪い隙間はあらかじめ不乾性パテ(ネオシールB-3)を付けておくといい。不乾性パテと上手に併用するのがコツ。
塗料が余ったら不乾性パテをノズル出口に付けておく。これでいつでも調子よく使えるようになる[3]。不乾性パテはこのような用途にも有用。
その後の経過
(2016/12 追記)
亜鉛めっき塗装は腐食するので定期的なメンテ(補修)が必要だが、上からリボスの自然塗料などを塗っておくと亜鉛メッキ自体の腐食を遅らせてさらに長持ちさせることが出来るかもしれない。
(2017/5/4 追記)
ローバルの亜鉛めっき塗料は数年たつと、本物の金属亜鉛の塊のように堅牢な仕上がりになることがわかった。亜鉛含有量が高い(顔料が少ない)特徴によるものとみられる。
(2018/1/8 追記)
ローバル塗料を塗ったところが剥げてきた。PPやPEなど元々塗料が乗りにくい樹脂や、ゴムで顕著。ローバルは時間が経つと固まって弾性が失われ、下地の伸縮に塗膜が追従できなくなった為と見られる。PPはプライマーで密着を改善できる。
今回の用途では防錆が目的でないので、亜鉛が高濃度である必要はない。一般的な亜鉛メッキ補修塗料の方が剥がれにくいようだ。現在はニッペのジンクスプレーをメインに使用。
PPやPEなど元々塗料が乗りにくい樹脂については、新品の時に塗らず、ある程度劣化して表面がザラザラになってから塗った方が剥がれにくくなるようだ。
(2018/10/8追記) 4年後の様子
真っ先にボロボロになるはずのPP製ケース。4年間、日当たりの良い南側のベランダに放置したにかかわらず何ともない。触ると弾力があり、強度も低下していない。
コンクリートブロックは風で飛ぶのを防ぐ重し。
同じベランダに4年間放置しておいた未処理のバケツ。触っただけでボロボロ崩れる。このような結果になるのが普通。
樹脂製の洗濯用品。これも通常、1年くらいでバキ、といってしまうものだが、全く問題なし。現役で活用。
最も過酷な環境にあるベランダの手すり。だいぶ塗装が無くなってきた。高濃度の亜鉛メッキ塗料は減りが早い模様。
現在はニッペのジンクスプレーをメインに使用。こちらの方が持ちが良いようだ。
以上の結果から、メンテナンス周期は4年程度であることがわかった。塗料の補修は上から重ね塗りするだけでよい。
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<参考文献>
1.ローバルの性能について